第398話 姦しく地下水道Ⅲ

「『グラニートード』という雑食の蛙のようですね。流れてくるものをなんでも食べてしまうそうなので、あまり近付かない方がいいでしょうね。特にネアさんはお小さいですし。ええ。カサ的に」

 ……。

 カサ的に。なんて念押しされると「小さくない」とは言い出し難いネア・マーカスです。居たのは青い蛙くんではなく赤黒い大蛙ですよ。大蛙。でかいです。水路にかろうじておさまっていますが通路にちょっと体のりだしてますね。水深が少し気になりますよ。

「ネアちゃん、一番小さく手頃感満載ってことかぁ。ソールカーナンさんの戦闘技能ってどのくらいなんですかー? 私は基礎攻撃スキル『電撃』なんで、フレンドリーファイア多めなんですけど、耐久に自信のほどは?」

 テリハさんが軽い動きでソールカーナンさんにふります。ソールカーナンさんが「ひっ」っと息を飲んだので、テリハさん動きが止まりましたね。

 フレンドリーファイア?


【味方を巻き込む攻撃手法を呼ぶことが多いですね】


 ありがとうございます。

「水分が多いですから、感電がこわいです。ソールカーナンさんとテリハさんは他の敵が現れることも考えて防衛。遠隔で切り裂けそうなら、ネアさん、お願いします。通路の安全を確保しましょう」

 テキパキとケイトさんが指示を出しますよ。

 私たちはそれぞれに了解を出し少し先をいくケイトさんについていきますよ。カッコいいですね。ケイトさん。その上で『鑑定』持ちかぁ羨ましいなぁ。

「赤大蛙じゃなくて、グラニートードなんだ。毒とか持ってるのかしら?」

 テリハさんが遠巻きに蛙を見ながら、ケイトさんに聞いてますよ。

 声かけて大丈夫なんですかね?

「鑑定結果ですからね。迷宮主がそう名付けているのでしょう。ちゃんと倒せばもう少し情報が増えると思いますが、現段階では名前と自分より少し大きいくらいのものまで食べてしまうという雑食性と無毒しかわからないですね」

「普通に一般男性より大きくない? 赤大蛙」

 それは見た目通りですよ。テリハさん。

「『グラニートード』ですよ。大きいですね。通路を一匹で埋めてしまうぐらいにはおデブさんでしょう」

 通路は水路より細いですからね。

「つまり、人喰い蛙?」

「まぁ、そうなるのでは?」

 ケイトさん、普通に雑談かまわない派の方でした。

 狩る前の情報としては悪くないですよね。

 ソールカーナンさんは画板を取り出して『グラニートード』を写生してらっしゃいましたよ。横にケイトさん情報書き込みながら。

 素朴な疑問があります。

 ケイトさんはともかく、テリハさんとソールカーナンさんは周囲に注意を払っているのでしょうか?

 とても疑問です。

 私はちゃんと周囲を警戒してますからね。だって急に大顎くんが飛び出して来たら驚くじゃないですか。

「略称はグラントになるんでしょうかね?」

 ソールカーナンさんがメモりながらそんなことをおっしゃいますよ。

「ニートード、でニートでは? ソールカーナンさんはどう略されるのがお好みです?」

 テリハさんが呑気ですよ。ケイトさんが小さく「ニート」って繰り返してました。

「自分、ですか?」

「もちろん、公式の場所で呼んだりしませんよ? たぶん」

 途中で自信なさげになるのがテリハさんなんですね。赤蛙君の呼び名の良し悪しってそこまで気になりますか?

「ヘルムート・ソールカーナンなので、そうですねぇ」

 思いっきり視線が遠いですよソールカーナンさん。

「ヒルト、と幼い頃は呼ばれていましたね。ずいぶんとそう呼ばれてはいませんが」

「ヒルトさんですね! よっし! 呼びやすくなったぁ!」

 あ。

 きっと気が付けばヒルトさん。以外の呼び名を忘れてむしろ問題ないと誤認しちゃうやつでは? 蛙の呼び名短縮ついでにソールカーナンさんの呼び名も短縮したかったんですか。私もそれで呼んで大丈夫でしょうか?

 まぁ、私は名前自体を忘れてしまいがちなのですが、短い方が記憶に残りやすい気もするんですよね。


【気のせいでしょう】


「テリハさん、騒がし過ぎです。蛙がこっちを見ていますよ」

「え。ニートくんがこっち見てるの? 電撃撃ってみようか?」

 ケイトさんに注意されて小首を傾げ、『電撃』の準備ですよ。テリハさん。

「ネアさん、ソールカーナンさん、水から遠ざかってください。テリハさん、どうぞ」

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