第397話 姦しく地下水道Ⅱ
配線をいくつかなんらかのスキルで溶接すると明るさが広がり、ぽちゃぽちゃとスライムたちが流れの中に逃げていきましたよ。
「この灯りには魔物を遠ざける効果があるのです。……迷宮が変わっても効果があるようでよかったですよ」
露骨な安堵を見せたソールカーナンさんは五十はこえているように見えないんですが、地下水道には五十年以上人が入っていないのでは?
うーん、人様の外見で年齢ははかりにくいんですかね?
マエの知り合いには死(全身分断は死だと思います)と再生を繰り返しつつ、記憶は継続していて『別に死んだわけでなし』と言い放つ変なのもいましたしね。まぁいいでしょう。
【え? それは死では?】
ですよねー。でも、『天上回廊』の刻倉氏の件もありますからね。分断と再結合。珍しくない案件なのかと思っています。
【珍しい案件です】
天職の声さんが即座に言ってきましたね。珍しい案件だったんですね。
「ここから先は自分も行った事がないんですよ。師は自分にはまだ早いと言われておりましてね」
格子戸に巻かれた鎖錠をガチャガチャとほどきながらソールカーナンさんがおっしゃいます。
【迷宮への捧げ物となる王族を水路に落とす役目だったのかも知れませんね】
正規の入り口以外にもありますもんねぇ。出入り口。
【ですから、迷宮核は主と共に消えたのでしょうね】
……ん? あれ? 待ってください。それって、迷宮入り口が帰って来難い難易度高めの迷宮って事ですか?
いえ。『天水峡連』以前の迷宮の話ですし、『天水峡連』の入り口は……潜り川への急流が裏口でしたね。
あれ?
不安しかない?
いくつも格子戸を通り、その度に薄暗くなる通路の灯りのもとを探して魔力切れには魔力を注ぎ、術式の不具合を修復しながら行きます。ソールカーナンさんは時々水路に嵌められた石板を確認してらっしゃいます。
「それ、なんなんですか?」
テリハさんがしゃがみ込んで確認中のソールカーナンさんを見おろして尋ねます。私も気になりますよ。
「これは水質浄化板ですよ。有毒物質や浄化スライム以外の魔物を排除する仕組みなんですね」
「あー。王様やお偉いさんが使う水は品質をとても管理しているってことね。納得」
なるほどです。
「当然だと思いますし、それで王都の水が安心できるのは助かることですね」
「ええ。王都全域の地下水道で同じものが設置されていますよ。なかなか整備に回れておりませんでしたが来春からはゆっくりまわっていく予定と予算が組まれていますよ。……、市街地地下にはスライム以外の魔物を遠ざける効果が小さい浄化板が設置されているので」
冒険者に依頼するか、警備隊に依頼するかの必要があるそうです。
飲み水は必須なのに整備用維持費ケチっているんですかね?
「あー、人手、どこも不足ですもんね。お疲れ様です。ソールカーナンさん。おかげで水源使えているのはとてもありがたいです」
あ。維持費ケチっているんじゃなくて、純粋に人がまわせないんだ。そういえば、ティクサーの警備隊の人達もよく「過労死させられる!」って吠えてますね。いつも元気だなぁって聞いているんでなんとも思ってなかったんですよね。
「いえ、街中の霜柱を砕いて過ごし易くしてくださってる警備隊や冒険者の方々に頭が下がりますよ。その上で迷宮で食材や物資を集めてくださっているんですから」
「ホントですよね! 私のような商業ギルド員としてはその成果を出来る限りうまく還元されるように売買するだけでしょ。ソールカーナンさんが整備に必要な物資がある時は是非声をかけてくださいね。全力で頑張りますから!」
テリハさんがとても勢いが強いですね。
「水源管理はとても重要ですし、信用度もあるでしょうから、私たちのような若輩者が噛めるとは思えないので、テリハさんは控えられた方がよろしいのでは?」
ケイトさんが辛口でした。
「いえ、知り合いがいるというだけでやはり心強いですよ」
かしゃんと格子戸の鎖錠がまた外されます。
「こちらに下り階段があるはずです」
不審者の通り抜け対策なのか通った格子戸は鎖錠をかけ直してらっしゃるのでソールカーナンさんがいないと出れない案件ですよね。
階段室を開ければ、階段の下の方から『げー』となにかが鳴く声が響きましたよ。
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