第396話 姦しく地下水道

 王都の地下水道は暗いです。

 所々に鉄柵や格子が設置されており、真っ直ぐには進めないようになっているようです。ちょっと育ちすぎてそうなスライムが水の中や通路部分を我がもの顔(スライムの顔は見極めつきませんが)で這いずっています。

 ここのスライムは跳ねないようですね。

「うう。なんで、私がっ! 警備隊や保全部でもなければ冒険者でもないのにぃ」

 ちなみにこの嘆きは私ではなく、商業ギルドで受付してくれたお姉さんです。テリハさんといいます。ルチルさん作の保湿クリームを個人購入した罰で私、ネア・マーカスと冒険者ギルドから派遣されたケイトさんの三人で地下水道の事前調査です。あともう一人王宮の地下水道事業部からソールカーナンさんという小柄なおじさんが案内人として同行しておられます。ほぼ無言で(たまに「寒い」とボヤくぐらい)水道内をキョロキョロしてらっしゃいます。

「冒険者資格は持ってないんですか?」

 ケイトさんが不思議そうに聞いていますね。

「あと半月で失効するわ。だいたい商業ギルドで仕事しているんだし、不要じゃない」

「迷宮氾濫がおきた時、持っているステータスカードは複数あった方が融通が効きますよ?」

「迷宮が生じてまもないのにそんなこと考えさせないでよ! あー。もう。なんでネアちゃんこんな依頼受けちゃうのよー」

「それは」

「それはー?」

「王城の敷地に地下水道の入り口があるので」

「それはそうね」

「こんな依頼がなければ入れないコトと」

「う。確かに」

 コレがかなり大きいんだけど、正直に言えば。

「暇だったからですね」

 テリハさんがスライムを電撃で焼き尽くしながら奇声を発していますよ。

 浄化スライムはあまりいたぶっちゃいけないのではないのでしょうか?

 ケイトさんもポツッと「暇」と呟いてました。

 変態じじい、もといダスティンおじいさんの情報を城に届けた結果、調査員にグレックお父さんが指名されたのですが、がです。マコモお母さん欠乏症なグレックお父さんはあっさり断り、そこで引き留められていたせいなのか、どうやら妹さんと大揉めし、(王様の前でだそうです)王様の仲裁でグレックお父さんはマコモお母さんとマオちゃんを一度王都に連れて来るはこびになったそうです。その際、私がもう一度往復するより、王都で待機になったわけですが、グレックお父さんが私とマーカスの親族とを引き合わせることに難色を示したんですよね。確かに私血の繋がりのない娘ですし、説明難しいですよね。

 でも一人にはしたくない。そこで、商業ギルド受付のテリハさんが出てきます。臨時保護者というやつです。ちょっとした護衛も兼ねることから冒険者のケイトさんが雇われたんですね。グレックお父さんが帰ってくるまで私の身の安全保護というやつです。

「確かに『蒼鱗樹海』でもいいんですが、許可が出ているなら珍しい場所がいいじゃないですか」

 ええ。

 私、行動規制受けてませんからグレックお父さんについてきていたソールカーナンさん(私のそばにいればティクサーまで出向かなくていいとものすごく安堵してらっしゃった)「『蒼鱗樹海』に潜る実力があるのなら地下水道散策なぞどうかね?」と提案してくださるなら乗るしかないじゃないですか。ええ。

 街の外は街中よりグッと冷えるという事実がお誘いの起因ぽいですが珍しい場所は素敵ですよね。たぶん。

 ついて来るしかないテリハさんが愚痴多めなのはまぁしかたないかなと思ってますよ。ケイトさんの方は特になんの反応もなく、周囲警戒してくださってます。

「地下水道って意外にキレイなんですね」

「水の流れであって、下水というわけではありませんからね。浄化用のスライムも変異個体は出ておりませんようですし」

 ケイトさんの言葉にソールカーナンさんが少し上擦った感じで説明してくださいます。

「死体とか転がってなくて、キレイなのは助かるけど、暗いしじめってるー」

 水場なのでテリハさんが言うように確かに湿気は高いですし、あと水温が低いのか、かなり冷えます。

「あ、灯りの魔道具に魔力が通っていないんです。故障箇所を見つけないと……」

 おお。故障箇所!

 修理するとこ見れるんですか?

 楽しみですね。


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