第391話 青蛙との接触

 靴を脱いでズボンをたくし上げぬるま湯に足を遊ばせながらダスティンおじいさんのボーマン君をブラッシングしているネア・マーカスです。

 最初はちゃんと蛙と上着脱いで靴とズボン以外身に……いえ、手首に布を巻いてたりはしましたね。ズボンの飾り……あそこに荷物袋ぐらい仕込んでる? と思ったら荷物袋はボーマン君が首に下げているそうです。太い首輪だと思いました。

 そうそう、もう飽きて視線を外しちゃったのですが、輝く青蛙と筋肉露出じじいのアツイ闘いが繰り広げられているのです。

 あいつら実は仲良しだったりしませんかね? ほら、好敵手と書いてマブダチと読ませるみたいに。


【そんな特殊な読みがあるのですか?】


 いろいろあるみたいだよ? 書類と書いて敵と意味を持たせるとか。


【それは処理したくないだけでは?】


 たぶんね。めんどくさいもの。

 たまに上から程よく冷めた水滴が落ちてくるくらいでこちら平和なものですよね。記憶を刺激するような良い香りがしているんですがなんでしたっけね?

 ちょっぴり甘い匂いな気もしますねぇ?

 ボーマン君がぬるま湯のある一点に睨みをきかせているのでそこを見てみれば。……青い煌めきがひとつふたつみっつ……。は?

 視線があいましたよ。

 露出魔じじいと遊んでいる青蛙よりひとまわりふたまわり大きな大蛙が浮かんできましたよ。

 ピュッと水流攻撃……じゃありませんでしたよ。膝に落ちてきたのは氷の盃ですね。コレは綺麗ですよ。冷たいですけど。

 もう一回ピュッと水流を青蛙が吐きましたよ。

 黄金色で柑橘系の香りがふわんと漂う液体が盃に着水です。

 ん? 

 んん?

「あ、コレあれだ」

 あれ!

 えーっとなんだっけ蜜柑じゃなくて酢橘じゃなくて柚!

「あったか甘めの柚湯?」

 それだけじゃないよね。……えーっとえっと。

 柚、蜂蜜……、お茶の木の新芽を干して炒ったり発酵させてつくるっていうお茶の味が混じっている気がするぞ。

 薬草茶より味があるよね。とりあえず蜂蜜の甘さと柚の香りが好きかな?

「うん。おいしー。ちょっと熱いけど」

 息を吹きかけながら飲めばいいから問題はないね。

 盃冷たいし、すぐに冷めるでしょ。

 青蛙は満足そうにゲーゲー鳴いていますね。

「お湯遊びには水分必要だよね。ありがとう」

『げー』

 お返事くれるくらいには頭いいんだね。ボーマン君も特に敵意を拾っていないためか私が気にしてないなら気にしないとばかりに大あくびしてますよ。やっぱりあの青蛙と露出魔筋肉じじいは仲良しってとこなんでしょう。たぶん。

 あ。おなかは白いというか半透明?

 つやりとした光沢のあるおなかは硬そうです。おなか以外は青い鱗が覆っていますね。装飾品に使用する宝石のように見えます。まるく磨いているのではなくて煌めきが際立つように多面カットで磨かれてる感じのヤツです。思い浮かぶのは。

 ピュッと別方向から盃に液体が追加されました。

 液体の色が黄金色からミルクティーカラーに。ってかミルクティーですね。コレ。柚湯の味が不思議に残っていないので入れ替えられたのかもしれませんね。

「お砂糖入れるので」

 横に置こうとしたら青蛙が一匹寄ってきて背中を晒しますね。鱗の隙間から白い球体がきらきらしてますね。

『げー』

 毒液を出す蛙っていましたよね?

 白い球体は液体にすぐ溶ける甘味剤でしたね。

 ええ。

 現在のところ青蛙天国ですよ。

 ネア、蛙は好きでも嫌いでもありません。

 ちやほやされるのは好きかなとも思えるのでちゃんと現実を見ないで置こうと思います。

 おやつを出すことを許してほしいな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る