第390話 蛙事情

「天水ちゃん。カエルが吐いた液体がカップに……」

「是。ようやく満足。てぃーさーばーふろっがー君完成。経過苦労」

「てぃーさーばーふろっがー?」

「チャサバガエル」

「……、えー、たまちゃん、蛙の吐き戻しはちょっとイヤー」

「否。水温水質薬効成分抽出魔力旨味成分封入技能、放出時屑除去旨味芳香維持、大変!」

 兎と亀が純白の蛙を挟んで妙な口論になっていますね。

 エリアボス蛇のまわりには青いキラキラした蛙の群れが集っているようです。

 亀が私の視線に気がついたのか、チラリと青い蛙の群を一瞥し。

「ふろすきーとーど。てぃーさーばーふろっがー未満個体群」

「何故そのような魔物を?」

 私のこの問いはさほどおかしな問いではないと思うのですが、亀がわざとらしく首を捻ります。手ずから捻りましょうか?

「ヌシ様美味しい好き。ヌシ様に最高美味茶」

「えー。理解するけど理解できないよ。天水ちゃん。なんでカエルの吐き戻し……」

「てぃーさーばーふろっがー君魔物。茶葉香草薬草果実投入後水付与! 放出スキル『ユッダレン』後放出スキル『ユザメレ』冷却完璧。エリアボス蛇『ユッダレン』好き」

 戯れ合う兎と亀。流れ弾が蛇に被弾ですか? ああ、いけませんね。亀に毒されていますね。

「ユッダレンはアッタカクて好キダ。天水様。ふろすきーとーど、優秀」

「当然。ふろすきーとーど、ぐらにーとーど進化! 必要失敗群!」

「待ちなさい。天水。ぐらにーとーどとは?」

「『天水峡連』一階層出没魔物悪食蛙。地下水道掃除スライム同僚」

 提供された資料を見るに主人様を乗せることができそうな赤黒い蛙だとわかりますね。

 攻撃手段は五十度前後の水を放出。

「五十度ってなんですか? 天水さん」

「水温。少々熱」

 そうですか。

 後の攻撃手段は舌での巻き取りですか。蛙ですものね。

「ぐらにーとーど。雑食。目標優秀茶器!」

 つまり、ぐらにーとーどから進化した精鋭がふろすきーとーど。その中でも亀の目に適った個体がてぃーさーばーふろっがーというわけですね。

「ふろすきーとーど、『ユッダレン』凡そ八十度。……沸騰未満温水。『ユザメレ』マイナス三十度冷風急速冷却風味劣化小茶氷作成可!」

 殺傷能力とまでは難しくとも優秀なのでは?

「てぃーさーばーふろっがー君茶器」

 お茶を淹れる為の魔物だと主張したいわけですね。この亀は。

「確かに。今頂いた限りとても美味しいお茶だと思いますね」

「是!」

 ですけれどね。

「主人様のお好みにあうかは別では?」

 得意げに上下していた亀の頭がピタリと止まります。

「確かに美味しい。とは言って喜んでくださるでしょう」

 あの少女は甘党というか、本当に雑食で選り好みの少ない子です。

「ですが、そうですね。ほんとうに『美味しい!』と言っていただきたいなら私でしたらですけど、蜂蜜か砂糖、あとミルクを入れるかもしれません。もしくはお水で薄めてミントを少々でしょうか?」

「添エルおやつ次第?」

「ええ。ええ。そうですね。エリアボス蛇の言う通りです。おかず系お茶受けか甘味系お茶受けかで変わるでしょうね」

 腸詰めでしたら薄めてさっぱりミント。

 甘芋でしたらそのままのお茶であうでしょう。

「柔軟性要……」

 そう呟き、ゆらりと自分の迷宮に帰還する亀です。

「外見とお茶淹れ手法も改善するべきだとたまちゃん思うですよ? なんで天水ちゃん聞かないですか!」

 憤慨する兎がタシタシと床を蹴っていますね。

「主人オフロ好キ。ふろすきーとーど『ユッダレン』でオフロ溜メル。主人ヨロコブ!」

 いえ、エリアボス蛇。

「沸騰未満まで熱い湯は人は入れませんよ?」

 ぐぐぅと上体が傾きますね。

「『ユザメレ』る?」

 凍るのでは?



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