第385話 強行軍で
騎獣に乗って氷原を駆けます。時々氷原をぶち抜くんですがそこは街道の上部です街道が塞がられるのは困るのですよ。
騎獣を操るグレック・マーカスの懐でぬくぬくしながら道を確保するネア・マーカス、クノシーへの強行軍中です。
ところで街道に落ちたら死ねそうな高さですね。
雪蜥蜴と雪狼が時折襲ってきてはグレックお父さんに撃破されています。お父さん強かったんですねぇ。しみじみと伝えると苦笑いされましたよ。
「これでも迷宮都市であったティクサーの警備隊の部隊をひとつ任されていたし、迷宮が失われてからはお父さんが警備の責任者だったんだぞ。確かにマコモやネアに出会った頃は負傷後だったしなぁ」
街道を示す細い割れ目を確認し、時折り広げているんですが下に人がいたら危なくありませんかと聞いたんですよ。さすがにちょっと心配でしたから。「下は下でわかっている人間が配されているからな。あと、後追いで中層を調べている部隊もいる」だそうです。中層?
「木と氷原上との間に川のような水の層が揺らめいているからな。もしかしたらそこに迷宮の入り口があるかも知れん。期を限定する迷宮にはままあることだ」
いえ。『天水峡連』は常設迷宮です。グレックお父さん。
言えないのが心苦しいですね。
でも、慣れた人はそうやって迷宮の入り口を探すんですね。参考になります。
寒いですけどね。グレックお父さんの外套の内側はあったかいんですが、外を確認する都合上外気に触れるのでやっぱり寒いんですよね。
ぐりぐりとグレックお父さんが撫でてくれます。
「ハーヴェストのこと力になれなくて悪かったなぁ」
え?
「かえってこれないかもしれないのに迎えにいくことも許してやれないんだからなぁ」
グレックお父さんがなんか言ってます。意図がわかりません。
「ハーブ君が偽造迷宮に取り込まれたのは本人の意志ですよ?」
グレックお父さんが責任を感じる必要性がどこにあるというんでしょうか?
心配しなくても生きてそうですし、学都に向かう前にもう一回おはなししときたいとこですよね。
「父親、いや、親に、大人には子供を守る責任があるんだよ。ネアもハーヴェストもマオもお父さんが救い、守るべき子供達だ。それなのに町の役人としてハーヴェストを救い出すために力を尽くせないのは父親として辛いものなんだよ。いっそ責められたいほどにね」
えっと、性癖?
「ネア。声に出ているからね? 性癖だなんて言葉をどこで覚えたのかな? タガネ君かな? それともルチルくん? え? ハーヴェスト? ……どこのボンクラが子供の前でなにほざいて……。ああ、あんまり良い言葉ではないから小さい子のいる前ではあまり使用しないように。特にネアが言っているとお父さんはかなしいな」
弟君、見た目より大人だった経験がありそうだからなぁ。
「ハーブくんの好みは割り切れたおつきあいのできる人って言ってたわ。グレックお父さんはえーっと獣人特化?」
ケモナーって言葉はないよね?
「お父さんの好みはマコモお母さんだよ」
知ってる。
「もちろん、獣人だから惚れたわけではないよ」
「美人だから?」
「ああ、どんな見窄らしい装いであれひときわ輝いて見える一目惚れだったとも」
ふぅーん。知ってたけど。
「きっと、わがままでひどい女だと思ったよ」
え?
「ひと目で本質的な強者だと思ったよ。きっと、何もかもを犠牲にしても凛と立つ女。お父さんはそんな彼女に惹かれてやまないんだ」
グレックお父さんも大概ヤバくないですか?
笑って言っていていいんですか?
「彼女はネアの母でありたい。ならそれを叶えたかった。それは守るべき子供を守ることではないんだよ」
そうと言って、グレックお父さんはマコモお母さんのすべてを肯定することをやめられるわけじゃないですし、私的にはかまわないんですが、ただ、マオちゃんは守って欲しいと思います。
それに。
「グレックお父さんはちゃんと私を守ってくれてますよ」
弟君も気を使いつつもグレックお父さんにお父さんって呼びかけている時は嬉しそうだったんですから。いえ、たぶん、弟君はマコモお母さんを警戒してましたね。無意識に。
「そうか?」
「はい」
「そうか」
グレックお父さんとこういうお話をするのはマコモお母さんとの仲を取り持った以来かもしれませんね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます