第382話 砦へ行きます

 砦までの道を氷壁を破壊しながら進みます。

 基本はきっちり道分。森部分は凍っていたままでいいそうです。その方が確かに魔物は出てきにくいので納得してるネア・マーカスです。明日はぐるっと町の外周あっため行脚予定をねじ込まれましたよ。お嫁さん見たいのに。

『偽造迷宮』の維持のために砦には警備頑張ってもらう必要もありますから、町が保持する戦力は高めるべきなんですよね。余裕はないですが人口が無闇に減少することも許容できはしないんですよね。

「王都の方じゃ『草原の国』に氷を売るって商人が行き来することで寒さを凌いでいる連中がいるってよ」

 え?

 隣国?

 寒さ凌げるんですか?

「あっちの国は年中温いからなぁ。今の時期は夜がちょっと冷えるくらいかぁ」

 え?

「迷宮が違えば影響力も違うからな。アドレンスには複数の迷宮があるせいか四季の変化の大きいのは前の迷宮の時と変わらないな」

「ここまで寒かったか?」

「んー、忘れたな。十年前の話だし」

「こんな氷壁はなかったことは間違いないがな!」

「違いない!」

 お兄さん達がケラケラと笑っていますよ。

 ふぅんと思いながら聞いています。

 きっちり道分な理由は予定外の存在。つまり不審者に隠れる場所をあまり与えたくないそうです。道の幅きっちりで切り取ったり溶かしたりいろいろ試してみてます。たまに警備隊のお兄さん達が隊長さんに「いけ」と技行使を強要されていますね。

 氷壁は『蒼鱗樹海』の影響というよりもしかして『天水峡連』の影響ではないかと思うんですよね。


【その通りです。現在地表に影響として現れている魔物はスノーリザードや雪蛍、雪狼が主流ですね】


 え。

 猪や熊は?


【『蒼鱗樹海』一階層に変わらずおりますよ】


 食糧が一気に減ることはなくて一安心ですが、雪狼の話はあまり聞きませんよね。


【縄張り巡回は行っているでしょうから、存在を把握している者が限られているのではないでしょうか? 町と街道には接近しないようですし。接近しても事切れた行き倒れを餌場に運ぶぐらいでしょう】


 あー、なるほど。

 実害がなく、死体を迷宮に放り込みに行く手間も埋める手間も省いてくれる益獣というわけですね。

「ネア嬢、もし迷宮に交渉する機会があれば是非、寒さをゆるめてほしいと伝えてもらいたい」

 隊長さんがお兄さん達の技を見つつ、私に話を振ってきます。

「迷宮で要望を呟けば良いと『石膏瓦解』で聞きましたよ? あとたまちゃんは対価を求めましたよ?」

 早い話、人が要求通したければ『配慮してもかまわない』と思える魔力を迷宮に提供すればいいんですよね。

 外が寒い?

 たぶん『蒼鱗樹海』は冬は『天水峡連』のモノだからしーらない。って感じですよ。たぶん、たまちゃんに聞けば答えてくれてそうです。それとも口止めされてますかね?

 私が要望を伝えるということは私が魔力を支払うわけですよね。

 それって責任ある大人としてどうなんですかね?

「確かに。ゆえか、『ティクサー薬草園』のあるティクサーと『たまちゃんチ』は凍てつき具合が他の地と比べゆるくはあるらしい」

 ティクサーは『ティクサー薬草園』のテリトリーですからね。外からの影響ももちろん受けますが。というよりすべての水路水脈は天水ちゃんの縄張りですからね。冷え込みからは逃れられないのです。

「なら西の砦側に氷壁を作成しているのは『偽造迷宮』への接近を阻んでいるつもりかも知れませんね。迷宮様も」

「ええ。確かにそういう意図ではひどく助かってはいますね。ですが、往来が出来ぬのも凍死者が出ることも回避したいのですよ」

 まぁ、確かに?

「望みはただひとつです。道を保持したい」

 あ。それはわかる。行き来は楽なのがいい。

 ……。

 迷宮の影響で凍っていくわけだよねぇ。

「魔除けを使えば凍るの遅らせるくらいできるんじゃあ?」

 ほら。旅の休憩所や開拓村の結界みたいに。


【可能ですね】


 だよね。そりゃ資金と魔力は必要そうだけど。

「道の幅に限定して影響阻害できたらって思っただけだけど、もう試してみて、ますよね?」

 子供が思いつくんだもんね?

「……。お恥ずかしながらまだですね。そうですね。迷宮の影響でしたね。野営地とて影響は受けるとはいえ、その影響はゆるい。魔除けに魔力を注げば人に良い環境を維持もできる。規模を限定して道を保持に使う。術式を各ギルドに挑戦依頼として出しましょう。冬のうちにまた砦に向かう日をとってくださいね」

 ぉ、おう。

 なんか警備隊長さんがよくわからない呪文を唱えてらっしゃる。

 砦に無事着いた頃、お願いできた場合、対価を求められたら返答は待ってもらってなにを望まれたか伝えてほしいと言われました。

「ネア! 猪の腸詰は在庫にあるか!?」

 答えは砦から飛び出してきたイゾルデさんの勢いでしそびれました。


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