第381話 氷壁を壊せ!
「冷えるからね。道を温めていこうか」
警備隊長さんに連れられて砦方面へ向かいます。のんびり徒歩です。寒いですよ。
迷宮入り口に近いとはいえティクサーから砦まではそれなりに距離もあり、食材や加工品の入手ができなくなれば研究の徒か戦闘狂が主体の砦の生存率に不安が生じると言われれば道も整備せねばならないじゃないですか。と大人の理不尽な要求を聞いているネア・マーカス十歳です。
まぁ、砦にいるのがイゾルデさんみたいな隊員さん主体じゃしかたないですよねえ。汚部屋になってませんか?
お供え場に繋がってるんですよね?
清潔さ大事だと思います。
「非常食主体になると飽きるんだよ。交代の時に弁当だとか鍋入りスープだとかは持ち込むんだけどな」
遠い目になる警備隊員のお兄さんですよ。警備隊員さん達もたくさん食べますもんねぇ。料理ができると厨房から出られなくなるそうです。
迷宮探索が好きなだけできると思ったら厨房に閉じ込められて「飯はまだか」と要求され続ける地獄について愚痴られたと愚痴られました。要求する側の方が基本強いことが多いので断りにくいらしいですよ。
ほぼ道を塞いでいる霜柱の成れの果て。それは町を囲う壁の高さを越えそうでちょっと圧迫感があります。
「これ、魔物が上から入ってきませんか?」
なんて誰にともなく呟けば重々しく頷かれましたよ。可能性あるんですか。南門は人の通行が多いのでこんな惨状にはなっていないんですよね。知ってます。
西門使用されなさすぎでは?
というか門から遠い部分も含めて大丈夫なんですか? え。あやしいんですか? 視線逸らさないでくださいお兄さん達。
「霜柱からの冷気で壁際に住む者も体調を崩しがちでな。この状況では思うままに薪を拾いにも行けん」
行っちゃダメなやつでしょ? 見回り足りてないんですから。
とりあえず、防壁に手を当てて『ヒート』ですよ。足元がすごくぬかるむんですけど、中、大丈夫ですかね?
「霜柱除去にネア嬢を連れて西門へいく通達は冒険者ギルドに通してあるから対処要員は派遣されている」
聞く前に隊長さんに説明されました。
警備隊のお兄さん達がぬかるみをものともせず半分凍った木立ちを伐採する斬撃を繰り出していますよ。次の霜柱が育つ前に砕き易く通りやすいポイントを作っておいた方が後が楽だそうです。この後、冒険者と木樵共同で壁まわりの伐採会だそうです。
私が『ヒート』する必要がありましたでしょうか?
「いやー、助かる! 斬撃が途中で止まらない! 厚みと硬さが違う! 流石!」
とりあえず、警備隊のお兄さん達が露骨なヨイショしてくれてますが別に流されたりしませんからね。周囲にゆるめ『ヒート』ですよ。枝から水滴がいっぱい降ってきますね。
伐採と凍てついた枝を込み込みで砕いて壁側の氷や霜柱……氷壁を遠ざけているようです。
「普段はどうしても街中の屋根に伸びた霜柱除去が優先されますからね」
自力除去できない方も多いらしく警備隊と各ギルドの厚生委員会とやらが合同で冒険者ギルドに安全確保依頼を出してはいるそうです。ただ、なんていうかできる人ほど「なんで俺が寒い中低賃金労働なんだよ」と不満を持つケースが多くちょっと個人で報酬高め依頼が優先されてしまっているのが現状らしいです。わからないでもないです。
滑って転んで打ち身を施療院で治してもらう支払いより、霜柱払いの支払いの方が僅かですが安いんですよね。
寒いと夜も寝つきが悪いらしいですしね。
「いやぁ、俺たちはネアちゃんのおかげで比較的楽して過ごしているからね! 巡回はガンガンやってるんだが間に合わないねー」
私のおかげ?
「こいつんチ、ネアちゃんの家のそばだから便乗ヒートで朝楽してやがるんだよ。まぁ余波は独身寮にも届いていて助かってるよ。いつもありがとう」
おやぁ?
操作性が甘いようですよ?
ご迷惑ではないようなのでいいですけど。
冷やしている時もそうな感じでしたね。でも。
「私が学都に行ったらありませんよ?」
ええ。
「それまでにはもう少し基礎力を上げておくよ」
「今日のこいつも訓練というわけさ」
「じゃあ、私がでしゃばり過ぎるのは良くないのでは?」
見上げて問うと隊員さんが抱き上げて歩き出しますよ。まぁ足元悪いので助かりますが。
「いやぁ」
「なんだ」
「さすがに」
「なぁ」
なんなんですか?
「これはちょっと厳しいんだよ」
目の前に広がる光景は。
凍った木々、荷馬車一台かろうじて通れる道。おかしいですね。適度に切り拓いておいたはずですが?
いえ、前を見ましょう。
この氷壁どのくらいの厚みがあるんですかね?
【『ティクサー薬草園』一階層のひとフロア分くらいでしょうか? 薄い部分もありそうですが】
とりあえず爆砕あるのみですよね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます