第379話 お裁縫で指を突く
縫い目の均一性と直線化には自信がありません。というか縫い合わせてはいけない部分を縫い合わせてしまって縫い直すこと数回。なんだか監視されながら縫い縫いしているネア・マーカス十歳です。
「また自分のスカートと縫っちゃってないかしら?」
なんて見てくれているご婦人に問われる夜着製作中ですよ。
ティカちゃんは貰った型紙分の夜着は作り終えて他の型紙でなにか作っているのを知っているんですよ。「内緒」って言われちゃうんですけどね。帽子だったりカバンだったりするようですね。私が不貞腐れるとまわりが微笑ましげに笑うので平気なフリしてますけど!
「あら、少し縫い目が粗いわねぇ」
「だいじょうぶよー。ゆるめに縫ってしまってカタチを見て縫っていきましょうね。おばさん、『縫製』持っているからあとで修正してあげるわ」
ああ!
全部任せたいけど、自分でも作りたいってジレンマが!
とりあえずカタチをつくりあげて達成感を覚えさせてくれようという心意気を無碍にできませんよね。
ふと、指先を刺す針の痛みに手元を見れば少し縫い目が進んでいましたよね。とりあえず『清浄』です。
私より『私』の方がお裁縫上手そうですね。興味持ってましたし、やっていいですよ。ええ。
時々、指先をちくちく刺しながらお任せします。『私』なかなか上手ですね。
こうして言葉はなくとも出てくることはきっといいことだと思うんですよ。作業するくらい表に出ているのならきっと『他』の人の存在に少しずつ慣れていくでしょうから。
「あら、上手に縫えるようになってきたじゃない」
ティカちゃんの声と共に指先に痛みが走りますよ。
「え。ちょっと、ネア。手をはなして! 刺してる刺してるじゃない。驚かせて悪かったわ! ほら、指見せなさいよ」
あー、びっくりしちゃったかぁ。
「ちょっとびっくりしちゃった」
「集中してたのね。声をかける時は気をつけるわ」
そう言いながらそっと『治癒』してくれますよ。ティカちゃんの魔力は優しくて好きですよ。
「はい。おしまい。私はこれから厨房手伝いに行ってくるわね」
あ!
「じゃあ、兎肉と林檎を出しますね」
孤児院と母子院(子供を産む母のための宿泊施設)への食糧提供はゆとりある者のツトメですからね。(領主様から喜捨があるそうです)
「ええ。預かっていくわ。おやつくらい分けてもらえるでしょうから期待してて」
つまり、手伝いにくんなってことですね。ふーんだ。ちゃんとできることしてればいいんですよね。知ってますもん。
気分転換に部屋の換気とにょきにょき生えてる霜柱を『ヒート』で溶かしていきますよ。
冬の期も進んでくると主要路以外では潰しそびれた霜柱がガッチガチに成長しているんですよね。
二階の窓から出入りするハメになった人もいるそうですよ。そのせいで滑り落ちて施療院に担ぎ込まれる患者さんが増えているそうです。ティカちゃんが言ってました。
霜柱が成長しちゃうと見習い冒険者では掃除が行き届かなくなるのが難点で警備隊の人が砕いた後を掃除する見習い冒険者をよく見かけます。
私、最近「王都まで遊びに行かないかい?」って警備隊の人に誘われることがあるんですけど、それって街道の整備だったりしそうなのでお断りしているんですよね。
冬の期は家族でゆったりめに過ごすものなんですよ。
春の期には学都に向かう予定なんですから。
【その予定を踏まえてのことでは?】
帰国してきた大人の稼ぎ案件にしたらいいんですよ。クノシーからも王都からも『蒼鱗樹海』は近いんですから。
冬になって入場者減っているようですけどね。
【道が凍っていたりしますからね】
警備隊員さんや冒険者さんならぶちぬけると思うんですけどねぇ。イゾルデさんやドンさんなんかざっくざく進んでそうです。あ、オッさんもいけそう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます