第378話 冬の期の教会で

「どんな人のお嫁さんになりたいの?」

 ティカちゃんがそう聞いてきた気持ちはわかります。

 花嫁さんを見てははしゃいで知らない人でもお祝いしてましたからね。迷宮でお花摘んできて花びらを撒き散らしたりして。(好評でした)

 ただ、私ネア・マーカスは花嫁さんを見るのは大好きですが、自分がなりたいわけではないんですよと婚約者がいた経験があるという『私』には無縁なネタを伏せて解説するという難易度の高い挑戦にトライですね。

「お嫁さんを見るのが好きなんだよね。んー、グレックお父さんは好きだし、お家の感じもいいし、ティカちゃんちのご両親も素敵だし、家族っていいなって思うけれど、自分の横にいる人って思いつかないな」

 むしろ、そう。

「なんならティカちゃんとずっと遊んでたいし、あ。今度お洋服揃えたりとかしてみたい……えっと、恥ずかしいかな?」

 いや、まあ私の小ささが際立っちゃうかもだけど、『双子コーデ』とかしてみたいかなって。

「生地を買って二人で仕立てるの? 面白そうね。簡単な型なら出来るかしら?」

 あれ?

 難易度上がってませんか?

 私、お裁縫苦手ですよ!?

「縫製のギフトがあればっ」

「ちょっとネア、ギフトスキル頼りっきりじゃダメよ。少なくとも繕いものとかはできた方がいいんだし、旅装はしっかりしたものがいいけど、夜着は自作しましょ」

 つまり寝巻き。

「お揃いの夜着でお泊り会とかいいんじゃないかしら?」

「可愛く作れる自信がないんだもん」

 ティカちゃんがなだめるように言ってくるけど、どーせ、ネア大雑把だしぃ。

「ああ、もう! マオちゃんもお揃いで準備してあげるといいわ。絶対よろこぶわよ」

 あ、小声で「どんな出来でも」て付け足した。

 出来るできないを問答した挙句、尼僧様の一人が三サイズの型紙を私とティカちゃんにくださいました。

 教会で駄弁っていたからでしょうね。お式を終えたお嫁さんも(他の人のお手伝いや出産準備に入っている人も)微笑んでらっしゃいますよ。

 布を選んで買ってきたら裁断してくれて、縫い方を教えてくださるそうです。

 遠慮しようとしたら『清浄』と『ヒート』のお礼だと言われたので断り難くなりましたよ。

 三サイズの型紙ですが、ティカちゃんが渡されたものと私が渡されたものではほんの少し形が違うようでした。

 ティカちゃんが「こっちがいいなら交換する?」と聞いてくれましたが尼僧様が「そっちの方が難易度高いけど、頑張ってみますか?」とおっしゃるので拒否りましたよ。ええ。

 好きな感じの布を仕入れてきて、教会でお式の合間にお裁縫です。

 この冬の期に子供を迎える女性たちが教会には集まっていて新しい家族を迎える準備に慌ただしい空気があるんですが、これが普通だそうです。

 身分が高い場合には自宅内に専用の聖堂があったりするそうですよ。豪商なら金にあかせて尼僧様か司祭様を招いているそうです。産まれた子の戸籍登録は春の期に行われるんですけどね。

『私』は産まれた冬に『長子生誕』とだけ登録されたそうです。(天職の声さん情報)

 まぁ、それはそれとして冬の期には教会にお裁縫部屋ができるのはよくある事だとまわりの女性たちがおっしゃいますね。ご近所の奥様方もおられます。

「上の子は旦那に預けてきちゃった」とか「ギルドの託児所で荒い言葉を覚えちゃって困るわー」「え。あなたも口悪いじゃない」「えー、アタシからかしら〜」「産むのが女の役割って不便だわぁ」とか聞こえてきますよ。

 岩山の国を見ちゃうとこういう自由な空気っていいなぁと思います。

 教会にも託児所はありますし、各ギルドにもギルド員が作業に従事しやすいように託児所を設置しているのが基本です。託児所にいる職員は医療ギルドや教会で許可認定を受けた保育士が最低二人配置であとは各ギルドの見習いや隠居老による労働によって運営されているそうです。冒険者ギルドでも子守り依頼ありますからね。

「さぁ、ネアちゃん、生地の準備はできたからね。針に糸通してみようかな」

 穴の小ささに指がプルプルしますよね!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る