第373話 冬の整備で砦へ
町中の霜柱は昼には除去されます。
それは人の往来があることもありますが、整備依頼が子供達の食費に変わるからでもあります。
運の悪い酔っ払いの凍死体を見てしまっても平気になる子供たち……。見つけたら仲間うちで剥ぎ取るそうです。たくましいですね。
往来の減っている砦までの道を整備に歩いているネア・マーカス十歳女児ですよ。
お供はティカちゃん(食品販売目的)とドンさん(引率)です。
町から出て少し歩けば、霜柱に阻まれます。
凍りついた枝がざっくざくに落ちていて道を塞いでいるのです。
「砦への道を通らないのが今の迷宮への行き方だからどうしても整備が行き届かねぇな」
『ケモノの国』からの侵食対策にあまり人は寄るべきではないとされているんだそうです。
そのためにこっちからより近い道を整備しましたからね。
「溶かして伐採しときゃー、回収班が回収していくからさくさく進むぞ。ティカちゃんは時々素振りしとこうか。あ、ネアちゃんも素振りはしよう。体力増強は大事だぞ」
学べたことは霜柱に鈍器は有効でした。
軽い木製の槌に薄く銅を飾りつけてある武器に火の魔力を纏わせてぶん殴れば霜柱を溶かし砕いていくのです。かっこいい。
「筋力も魔力も効率良く使ってこそ伸びるからな」
そんなことを言いながら鉈で氷柱をつけた枝を打ち落としていくドンさんです。
蒸発するまで溶かさないと出来上がった水たまりはより強固に凍り付き、分厚い氷の層が出来上がるので溶かすより砕く中心ですよ。
凍てついた葛のツルなどが落としやすくていいですね。
砦の人たちが途中まで迎えにきてくれましたよ。
毛布や壁掛け、新しい銅鍋。保存箱に入った二十食分のお弁当。着火剤と灯りの魔道具。二年は持つという保存食二十日分に、大樽三つ分の水を凝縮してある魔道具などの領主館からの配給品をお届けし、井戸に清浄をかけて水質に問題のないことを確認です。
ティカちゃんもお弁当を全部買い取ってもらっていましたよ。
砦に常駐しているのは五人から十人で監視担当と周辺整備担当と資材調達及び連絡役となっているそうです。
いざとなったら命をかけて半日持たせるとか言われてしまうと不安しかありません。
侵食を半日食い止めたところでその後逃げようもなく食い潰されそうですよね。
「まっ、『蒼鱗樹海』も他からの侵略には対応してくれるんじゃないか? たぶんな。あとたまちゃんは少し遠いな」
『蒼鱗樹海』でのドロップ品をいくつか買い取り、たまちゃんチの加工肉をいくつか売りつけて商売実績確保です。
りんごジャムとふかふかパンは喜ばれましたよ。あとシュガーポットグラスの砂糖も。
往来ができなくなることを想定して食糧の備蓄量を増やしているそうです。春に周囲から断絶された恐怖もまだ新しいんだろうとはドンさん談です。
食材は集めやすかったらしいですが味変のない生活は辛かったそうです。
砦の見張り台から見る敵性大地からは敵意を感じません。
むしろ、なにも感じません。
森がぶっつりと途切れているのはわかります。ただその先は確認を阻む靄で覆われていてなにも見えません。
砦では見張りを強化しつつ、『蒼鱗樹海』で食材と鍛錬に明け暮れているとのことです。
で、霜柱を溶かすと喜ばれました。溶けた水は貯水庫に回収されたとのことです。
砂を含む霜柱は時に砦を破壊するので補修素材が不足気味にありそうだったとか。大変ですね。
ここから先にあるのはケモノの国、月砂翠宮。
今私の目にうつるのは薄い紗幕。
迷宮のようで迷宮ではない境界。
【偽造迷宮。天職由来のスキルのひとつと言われていますね】
天職の声さんが教えてくれました。
国ひとつおおうスキルって凄くないですか?
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