第371話 冬がきた

 秋はバタバタと過ぎ去った。

 教会における鑑定で弟君のカードは破損しておらず、生存率は高いと伝えられた。対して兄王子。アクサド殿下に関してはステータスカード(王家特製)の破壊が確認されたそうで粛々と葬儀とあいなったそうです。

『月砂翠宮』、ケモノの国の暴走迷宮を命をとして封じた美談になってるんですよね。

 他迷宮からの干渉舐めてましたね。と反省中の迷宮管理者ネアです。

 とりあえず、エリアボス蛇の落ち込みっぷりを宥め倒す秋の終盤でした。

 もしかしたらあの兄王子が主犯ですからね!

 内部から通された感じになりますね?

 エリアボス蛇に責任がないとは言いませんが、あの場には私もいたのです。

 国からの方針は『王子』が一人喪失したことなど歯牙にもかけない感じでした。『ケモノの国』が封じられている間に対応できる戦力を迷宮を使い育てるべきという声明を出したくらいですからね。

 まぁ、あの兄王子知名度マイナスってくらいの方だったようです。弟王子が『兄上』と懐くから王子と認識されていたくらいに。

 ルチルさんから聞くに「目立たず、王族認識されてない方が好きに学べたでしょうにねぇ」と同情的でした。でも、かなり引きこもり気質な王子様でしたよ? とも思います。

 そこそこ何かとできるけれど、こう、率先して動く人柄じゃないというか……。あれ?裏で糸引いている人とかいたりする?

 私から参謀タイプっぽい弟君を取りあげる算段!?

 迷宮運営に関してはほぼノータッチですが、美味しいごはんが減るのと『鑑定』がないのがつらいと思います。

 生きているなら手遅れになる前に回収しておきたいところですが、弟君たぶん自己意思で行ってるんですよね。邪魔したいとも思いません。

「訳の分からない行動って困るよねぇ」

 未だ落ち込んでいるエリアボス蛇を撫でますよ。

 まぁ、私も相談せずに行動すること多々なので彼らにとって訳の分からない行動をとっているのかも知れませんが。

 とりあえず、ティカちゃんには怪我なく無事に帰還してますし、安全確保しておきたい中に弟君は入れてなかったので問題は、ええ。目の前で他迷宮に干渉されたことです。

 でもねぇ。

 弟君ってどこか『危険』なんですよ。

 すごく判断力とか知識とか鑑定技能とか頼りになりますよ?

 たぶん、本人も『いい人』なんだと思うんですよ。

 ところどころ感じさせる『ダメ人間』の空気だって人らしいものだと思うんですが、が。かつて善良な独善に振り切った人間に感じた危険性を感じるんですよね。ちょっと違う気もするんですが。

 弟君は他所の(たぶん帝国)迷宮主だかなんだかっぽいトカゲ氏と契約している迷宮神子の一種かとも思えますが、少し違うようなんですよね。

 トカゲ氏と天職の声さんは同派閥な印象ですし。

『蒼鱗樹海』の管理空間でも天職の声さんを排除することに成功したようですから好きに天職の声さんについても考えることができますね。

 弟君の危険性なんですが、弟君行方不明の報に反応が激しい人が警備隊のお兄さんにおられましてね。天職の声さんがぼそりと【まるで魅了されているよう】などとこぼしてらっしゃいましたが、たぶんようじゃなくて魅了されているんだと思うんですよ。

 弟君、本人的には無自覚な魅了術師の可能性がありますね。本人の行動もまぁ、好かれやすいものなのでしょうが。

 つまり、それを使うことは常に『魅了』に晒されることなんですよね。

 迷宮や魔物を言い聞かせてお願いをきいてもらえる弟君の魅了に。

 とりあえず、春までにできればおはなしをしたいです。

 兄王子と弟君のどちらかか、黒幕がいるならそのへんと。

『ケモノの国』が牙を剥いた時、『蒼鱗樹海』がティクサーを守れなければならないのですから。

『エリアボス蛇、モット強クナル』

「そうね。エリアボス蛇はもっと強くなるよ。知ってる」

 バティ園長の張った結界とは似ているけれど違うものであることはバティ園長に確認済みだし、兄王子の天職が迷宮関連である可能性は高いというのは遺伝らしいことも聞いた。

 嘘でなければ弟君は『救済者』本人の意思に害意と悪意はないだろうけど、それが善行にならない場合は確実にあるのだから。

 そんなこんなでティクサーに冬がきた。

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