第369話 『蒼鱗樹海』二階層をいく⑥

「地下でもいい感じに燃えるものですね」

「姉さん、洞窟内で燃やすのはどうかと思うよ」

 あれ。

 暑かったですかね? 熱気は安全区画に回らないように冷やしていたつもりでしたが失敗した?

「暑かったですかね?」

「そこは大丈夫だったけど、酸欠になるかも知れないし」

 さんけつ?

 弟君の言う難しいことに困惑するネア・マーカス十歳です。

 風のない場所では空気がよどむとかよくわからない説明をされましたが、風が流れると気持ちがいいということには同意しますよ。

「次は俺様だな! 今度こそ地虫を」

「いえ、少々先に進みましょう。アクサド殿下も動けるようですしな」

 元気な弟王子を警備隊長さんが黙らせましたね。この辺なら置いて行っても一応まだ自力で帰って来れるんだろうなぁ。弟王子。

 燃やした後は地面が固まって歩きやすくもありますね。


【地虫とモグラで道を整備しているのでしょう。加熱された土が硬度の高いものに変わるようですから、それもまた道の阻害にも変わるのでしょう】


 ああ、砕いた部分とかかなり鋭利ですしね。落とし穴の底に立てればそれなりに効果は出そうですよね。

 歩きながら時々『穴ほり』で葛の根塊、山芋を採取しつつ奥に進みます。警備隊のお兄さんたちが行程の図解メモをつくってますね。地虫とモグラの出没フロアは軟土ゾーンで道が日々安定しないそうです。

 加熱してかためることで一時的に道が固定されるようですね。で、かたまった壁をぶち抜き軟土ゾーンに戻しちゃうのがワームだそうです。でも、加熱してかたまるのもワームの体液だそうです。弟君情報ですよ。

 穴ほりで掘ると葛の根塊や山芋、根野菜類にたまに冒険者が紛失した(たぶん本人ごと)であろう所持品がドロップしますよ。『銅の棒』とか『恋人からのお守り』とか『毒消しの空き瓶』とかだったりもします。当たりは『エオラスの財布』で金貨が二枚入っていたことでしょうか? 見知らぬエオラス氏は荷物袋と財布は別派だったようです。

 実は軟土ゾーンをこえていないそうで、どのくらい続くものなのか確認しておきたいそうです。ところで方向感覚がとっくにわからなくなっているのでぐるぐるしていても気がつけませんよ?

「方向? 大丈夫。自分『至真』というよくわからないギフト持ちでね。迷宮の入り口と階段の方角だけは、わかるんだよ。方角、だけは」

 グッと『方角だけ』に力をこめる警備隊のお兄さんですよ。迷宮内以外では使えないそうです。欲しいものの場所がわかるギフトスキルではないようです。残念ですね。少し。

「だから現在わかるのは一階層へ行く階段と三階層に向かうであろう入り口のはずなんだよ。あっちとあっちね」

 似たような方向指してますよ?

「ん? あれ」

 ん?

 お兄さんどうしたんですか?

「隊長! コレ向きがズレてます。コレ、方向的に砦方向に向かってます」

 あれ?

 砦方面は禁忌扱いされていませんでしたっけ?

「呼ばれてるんだ」

 そう言ったのは誰だったのか。いえ、たぶん、弟君です。ただ、誰か悩んだのは兄王子の方もどこかぼんやり動きがあやしげだったからです。トロちゃんは弟君の邪魔をするように足下をうろうろし、トカゲ氏は警戒モードに見えます。

 ……。エリアボス蛇の気配が薄いです。

 おそらく『月砂翠宮』からの攻撃、というか干渉ですね。

 障壁を強めるために魔力を強めて枯渇状態を緩和させて誤魔化すために迷宮核のなり損ないを周辺に配置しておいたのも悪手だったでしょうか?

 だって、潰れられても困るのです……。あー。この感覚ですね。潰れられて影響余波が抑えられないことが困る。

 だから、アドレンス王国は国を維持させられてたということですね。

 生まれたての迷宮はさほど大きな恵みにはならない。つまり弱小国家のうちに好き勝手される可能性があるわけですか。めんどくさいですね。

 十年で国民の愛国心なんてそれなりに削れているでしょうし、ああ! 違う!

「ハーブくん!」

「……行かなきゃ。呼んでるから」

 パーティメンバーから弟君と兄王子の痕跡が消失したと警備隊のお兄さんの呆然とした声が耳に届きます。

 あの愚弟、私のお手伝い要員じゃないの!?


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