第365話 『蒼鱗樹海』をいく休憩長い

「ネア嬢、言葉がいささか不足しているのでは?」

 警備隊長さんがお髭を撫でながらおっしゃいますよ。

 はて? とも思うのですが、確かに問題点が存在としてしまうのはそれもまた問題かも知れないと気がついたネア・マーカス十歳女児未だ他人の心の動きにはうといですよ。

「んー、初対面で印象悪いし、面倒だなって印象だし、よいなと思える部分をゼロにしちゃう存在?」

 小さいとか、言われたのはものすごくひきずってますよ?

「そこじゃないわよ。他人の特性をあげつらうことは良くないの」

 あー。

「つまり、ネアがクズかり幼女とか、小型火炎瓶とかが悪口っぽい感じですか?」

「え。それはただの二つ名でしょ。ネア自身の行動がその二つ名を支えてるんだからそこはいいのよ」

 いいんですか?

 チラッと周囲を見回すとソレは問題ないらしいですね。ちょっぴり不満なんですが?

「つまりね、将来的に殿下は将軍職につかれるのか。って謳われているのがノーティ殿下ね」

 え。

 アドレンス王国大丈夫ですか?

「疑わしい表情を本人の前でしないの。正妃様の二番目の王子様だから、本来後ろ盾もばっちりで教育も雑事の補助要員も用意されている愛され王子様ってコトね」

 ん?

 アレ?

 ティカちゃん、ティカちゃんの発言もちょっとダメなヤツでは?

 周りの空気が妙な流れになってますよ?

「気を散らさないの。それに反してアクサド殿下は尼僧長様のお孫さんで王族としてほぼ後ろ盾が存在しないの。優れた能力はね、時に邪魔なんですって」

「邪魔」

 その部分を繰り返すとティカちゃんが「そう邪魔なの」と眼差しで肯定(たぶん)してくれます。

「優れた個人能力を伏せるのは自己防衛よ。バンバンすべてを開示するんなら悪い大人から子供は逃げれないもの。水を出せる子が生涯水源の神殿に納められるなんて昔話もあるでしょ。そういう事を起こさないために身分問わず人の天職とスキルは黙秘というのがマナーよ」

 マナー。

 そういった昔話を繰り返さないようにという子供に語るおはなしは多くて自分の天職や生来持っているスキルについても口を噤む風習は確かにあります。

 問題のないスキルに関しては周囲の大人が使って見せたり、話題にしたりするものになるそうです。

 例えば、簡単に手に入るギフト系なら親から子に引き継ぎはよく起こるので自然に使えるようになるそうです。親御さんの真似して使ってみたら使えたは自然な事ですからね。

「あとは、その王族というのは国民を守るためにいるからね、それは有事の際にまず自らを捧げよと教わるんだ」

 兄王子がそっと補足してくださる横で弟王子が「なにそれ?」と言わんばかりの表情で兄王子を見つめているんですが王族教育?

「……だからね、『魂極邂逅』がアドレンス王家を拒絶することを理解できるかもしれない。だからね、もし、機会があれば、あればでいいんだけどね、いつか、うん。いつかでいいから花を供えに訪れる許可をたのんでほしい。あの頃、いなくなった姉上達は逃されただけじゃないと思うから」

 長く喋って疲れたのか、呼吸を整えて、それでも誰とも視線を合わせず兄王子は続ける。

「迷宮核のない迷宮跡地に納められるのは、あくまで崩壊の時間稼ぎで。姉上達もまだ子供で。そこを誰も祀らなかった。いまさらでも、せめてって」

 圧のある視線を感じる。

 兄王子のおねがいに疑問がある。

「ソレ、たまちゃんに言葉をおくれる誰でも伝言できるのにどうして今なの?」

 ドンさんとかイゾルデさんなら伝言頼めるだろうし、少なくとも花を供える配慮はドンさんがしてくれそうだと思える。それともそういう配慮はないものなのだろうか?

「っ……それは。その、迷宮に話を通せるのはより魔力が高く、影響力が強い相手だから。他に通すよりもより可能性が高い相手を選ばないと迷宮が二回目の交渉を受けてくれるとは限りなく、て」

 あー。

 迷宮連中、基本忖度激しいですもんね。

 それにしても。

「人の魔力の高さってそんなにわかるものなんですか?」

 正直、ドンさんやタガネさんの強さとかなんかは私には底が見えてきませんよ?

「強くなればなるほど、相手の強さも感知できるもんだぞ?」

 弟王子が当たり前だろう。という顔で主張しますが、私、あなたのお兄様には強者扱いされ、あなたには弱者扱いされているんですけど?

 意味がわかりませんよ?


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