第364話 『蒼鱗樹海』二階層をいく④

 安全区画でへたり込む兄王子になにか言われたらしく、弟王子がティカちゃんに近付いてきますよ。ティカちゃんも警戒しているようでじっと睨んでいます。

「……その、ぅん」

 ものすごく言葉のキレが悪いですがティカちゃんはじっと待ちの姿勢です。

「て、適切な諫言、感謝する。……そ、それだけだ!」

 そう言い捨てて、弟王子がばっと勢いよく兄王子の横に戻りましたね。気分はなにアレって感じです。

「不調法おゆるしをありがとうございます?」

 言い切ってから警備隊のお兄さん達に視線を向けているティカちゃんですからティカちゃんも自信なかったんですね。わかります。

 ある程度の無礼とかは領主夫人と領主様の名で許可出てませんでした? と聞きそうになるのをちゃんと抑えたネア・マーカスですよ。

 身分差ってそんな軽いものではなかったと思うんですがゆるめ対応されてますよね。自覚ありますが、これが異世界知識というか常識の差異なのかちょっと悩まないでもないんですよね。

「安全区画、近くにあってよかったね。姉さん」

 弟君がトロちゃんブラッシングしながらにこにこですよ。

「そうだね。おやつにしようか。魔力回復補助効果のあるおやつなら王子様にもいいでしょ」

 甘芋を茹で潰した奴を丸めて揚げたのにチーズかけたのとか、腸詰め肉をちょっと甘いパン生地に包んで揚げたのとか美味しいよねぇ。甘さと塩っぱさが混じり合うのって好きだわぁ。

 魔力飴を果汁で溶かしたお飲み物も添えたらきっとカンペキだと思うの。

「ネア」

「なぁに? ティカちゃん」

「あんたってどーしてそう緊張感がないのよぉおおお!」

 ふぇ!?

 痛い。

 ほっぺた引っ張られたらちょっと痛いですよ。

 あ。

 揺さぶられると頭くらくらするぅううう。

 なんでこんな凶行にぃいいい!?

 誰も止めないのなんでですかぁあああ?

 そう。誰も止めないままティカちゃんの気がすむまでほっぺたぷにぷに引っ張られ続けましたよ。

「常識を偽装出来るくらいには周りを観察する癖をつけた方がいいと思うの。そばにいてずっと指摘していけるとは思わないし。絶対、そのまま進んで私が『ネアはネアだしね』って納得しちゃったらそれはそれでダメなのよ。だって、私にはついていけないから。ネアが私を振り返ってくれるから、私はまだついていける気になれるの。ネアはネアよ。でも、置いていかれるのも嫌なの」

 え?

「置いていきませんよ? ティカちゃんと学都行くのも楽しみですし、いっぱい一緒に遊ぶんですよね?」

 ティカちゃんはいったいなにを心配しているんですか?

 いや、むしろ私が置いていかれてません?

 どんどん知り合いを増やして、相応しい対応を覚えていろんな事をいろんな人に教えてもらってますよね?

「そーなんだけど! ネアはネアだからいいんだけど、同じくらいネアがネアだから不安になるの!」

 えー。

 それ私わからないよ。

「んー。ごめんね?」

「理解してないのに謝らないの!」

「えー」

 難し過ぎるよティカちゃん。

 んー。

 まぁとりあえず。

「おやつにしよ。おやつ。お肉と果物どっちがいい?」

 おなかすくと生き物って怒りっぽくなるよね。

 お飲み物、冷たいよりあったかい方がいいかな? そっちの方が落ち着けそうだよね。

 不満そうながら(「だからなんでそういう反応になるのよ。そこが理解できないから周りが、……私が困惑するんだって言ってるでしょ」ともうひとしきり叱られました)あったかい果汁を飲んで「悪くないわね」とこぼすティカちゃんにほっとします。温かい林檎ジュースは美味しいですよね。

「ネアはノーティ殿下の問題点、わかってる?」

 ん?

 いきなり振ってきますねティカちゃん。

 弟王子の問題点ですか?

 そこはやっぱり。

「存在?」




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