第363話 『蒼鱗樹海』二階層をいく③
微妙な緊迫感に包まれているのはティカちゃんが弟王子に「あんたバカなの!?」と暴言と平手をお見舞いしたからです。なんでこうなったか? 弟王子がキラキラと兄上自慢をしたからですね。いくら兄王子が凄くてもそれを我がことのように自慢するのは違うのですよ。やり過ぎ傾向はありますが、ティカちゃんは間違っていないと考えているネア・マーカス、証拠隠滅が必要ならいくらでも行使できます。
「なにをする! 無礼者!」
言い返す弟王子。これたぶん反射ですね。
「他人の特殊スキルを身内だからってべらべら喋る無神経な愚者に無礼者呼ばわりされるなら別に構わないわよ! 信じらんないっ。聞こえる範囲に他にも人がいるかもしれないのに。特殊スキルは秘匿するもののはずよ」
「確かにそうですな」
ティカちゃんの解説に警備隊員さん達は苦笑いで頷き、隊長さんはしっかり肯定しますよ。
ちなみにはじめて聞きましたよ。
「特殊スキル、ってなんだろね」
弟君にそっと囁けば、ぐるんとティカちゃんがこっちをむきましたよ。
あ。
怒っている気配ですよ。えー。もしかして知っていて然るべき情報ですかー?
「ギフトが定着すればそれはスキルですね」
警備隊長さんの説明に私は頷きます。それは知ってます。
「親に定着したスキルが子供や孫に引き継がれることをご存知ですか?」
知ってます。知ってます。親御さんからたまにスキルが抜けちゃうこともあるらしいですよね。
「複数の要因が混じりあい迷宮に関する特殊スキルが生じる事があるんですよ。そのような方は迷宮に関する天職をお持ちである可能性が高いとされております」
バティ園長は『迷宮守護者』なんて天職持ちだったそうですしね。
「あー。尼僧長様、迷宮守護者っておっしゃってて、命懸けで両親や妹達を、住人を守ってくださったんですよ、ね」
「そして、今も『ティクサー薬草園』に強い影響を与えて、我々帰還者を助けてくださっているのです。最近敬意を払わぬ不心得者が増えていることが問題でしょうね」
ちょっと空気がしんみりです。
「天職は公開する事を推奨されません。家族であれ伏せることが多いでしょう。特殊スキルもそれに準じるものなのですよ。無論、あえて公開し自らの立場を強めることに使用することも天職同様自由ですが、それは他人が強要するものではないのですよ」
尼僧長様はその天職をまっとうするには『弱い迷宮』『危機』『依頼』と『本人の人としての死』が条件だった訳で。あれ?
特殊スキルって危なくないですか?
「……天職やスキルっていいことだけじゃないんだよ。姉さん。少なからずいいことのためには対価が必要でアクサド殿下がしたスキルでは大きな魔力が支払われて、おつかれなんだと思うから、休めるところに移動した方がいいと思う」
弟君に促され、移動することになりましたよ。
弟王子が微妙な気不味げな表情でのろりと動きますね。警戒大丈夫ですか?
「だって、兄上は凄いです。学都でだって助けてくださって。それなのに、誰も信じてくれなくて、兄上は凄いのに……」
「ぇえっと、ノーティ。凄いのは、素晴らしいのは兄上なんだよ。ほめてくれるのは、そうだね。嬉しく思うけれど、このスキルも天職もそれほど益の多いものではないんだよ。王族として生きる上ではね」
ぉお。兄王子すっごい長喋りですよ。珍しい。
でもね。たぶん、弟王子が兄王子を讃えれば讃えるほどに立場悪くなっていってたんだろうなぁ。と私にもわかるんですよね。
弟君も天職になにか対価があるのなら今度ちゃんと聞いておきたいところですね。
そういえば、私の『迷宮管理者』の対価というかデメリットってなんでしょうか?
【常識が身につかない。もしくは、人を同胞と認識できない。かもしれませんね】
え。マジ?
【運命からの切除。膨大な魔力。これまでの不運。実際のところこのあたりが対価ではないかと】
えー。
いやだなぁ。
しあわせとバランスがとれた時、大きな不運がくるってことじゃないの。
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