第362話 『蒼鱗樹海』二階層をいく②

 最初の接敵は薄茶色の昆虫でした。

 ちょっと抱き抱えるのにちょうど良さそうな大きさの昆虫です。背後にまわっているおなかは節とふくふくさがあいまっていますね。大きな前肢で土を掘って出現です。五体ばかり。

 ティカちゃんが「なんか、いやぁあああ!」と声をあげてぶん殴っていました。硬そうな音がしてますね。兎より硬そうだなぁと思っているネア・マーカス戦闘禁止令受けてる冒険者です。おかしくないですかね? 採取探索はできるだろう? そうなんですけどね。

「オケラかなぁ?」と同じく戦闘禁止を申しつけられている弟君が魔物を見ながらおっしゃいますね。あれ? 鑑定は仕事してないんですか?

「地虫って表記されているから」

 地面の中にいる虫ですもんね。地虫で合ってると思います。

「カマキリとか蜂は平気なのにぞわぞわするぅうう!」

 ちょっと半泣きでティカちゃん殴ってるんですが、手助けダメでしょうか? せめてトロちゃんの参戦。

「ダメですよ」

 そわそわしていると周囲を見回りに行っていた警備隊長さんが舞い戻ってきましたよ。戦闘はティカちゃんと王子兄弟の担当で最低限の護衛が警備隊員さんたちのお仕事だそうです。壁の硬化について聞かれたので加熱で硬化しましたと答えておきましたよ。少し眉間押さえておられましたよ。頭痛いですか?

「おふたりとも虫は平気のようですね」

「はい。平気です」

「足が二十本以上ないならたぶん大丈夫かと」

 弟君がするっと答えて私も慌てて答えますよ。ええ。うじゃああと足の多い虫は苦手ですよ。

 弟君が振り返って「あ、苦手あるんだ」って顔してますよ。私だって苦手ぐらいあります。元々は虫全般苦手ですからね。


【そうだったんですか? 大概のものに愛着を持って接しているなと思っていましたが】


 知らないんですか?

 人間は大概、環境に慣れるんですよ。そして恐怖の多くは未知です。つまり、相手を在るのが当たり前なくらいそばに居たり、必然として関わり続ければ愛着もわくんですよ。それはお互いの相手への対応にもよるので、もちろん嫌悪を、敵意をむけられていれば排除一択ですけど。魔物とかは逸れはあれど基本的に『そうある』が定義されていますからね。人間より歩み寄りやすいんですよ。


【人間より歩み寄りやすい……】


 天職の声さんだって契約者を一番とするそういう存在じゃないですか。

 利害関係成り立っている間は問題ないですよね。

 あ。

 地虫の殴り力強いですね。いえ、この辺りの地盤自体が柔らかいんですか?

 えー。

 あの外皮対魔力も高めですよ?

 あ、弟王子が斬りつけた。

「下がるがいい。兄上を守れ。ティルケ嬢!」

 そういえば、弟王子は物理攻撃派さんなんですね。将来は領主様系目指してるんでしょうか? 警備隊員のお兄さん(班長クラス)ほどじゃないけど、慣れはある感じがする。実際、地虫の前肢がぶっ飛ばされているし、腕は悪くないんだなぁ。

「ノーティ、さがって」

 兄王子様がティカちゃんを距離取らせながら弟王子に声をかけますよ。

 弟王子すっごい跳ね方で後方移動ですね。地虫を剣の横っ腹でぶち飛ばして距離とりましたね。

 そのタイミングで『上』から降ってきた『液体』が地虫を押し流して『液体』ごと消えましたよ。

 は?

 なにがありました?


【……門が開き、門に吸い込まれましたね……】


 え。

 天職の声さんもドン引きしてません?

 警備隊員さんたちもちょっとぽっかーんしてますよ。弟王子だけが「さすが兄上」とキラキラの眼差しをおくっていますけど。

「……疲れました」

 兄王子、コメントはそれだけですか?

 いや、ずっこくないですか?

 その特殊戦闘行使で戦闘禁止されていないのずるくないですか!?

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