第361話 『蒼鱗樹海』二階層をいく①
悲鳴が響く。
それは少年だったり、少女だったり。
つまり、弟王子だったり、私やティカちゃんだったりだ。兄王子や弟君は器用に滑ることも転ぶことからも逃れられているのだ。いえ、兄王子は静かに滑って転んでる。声あげてないだけだ。
そう。ここは『蒼鱗樹海』の二階層巨大なアリの巣のような地下迷宮部分である。降りたった二階層の入り口フロアは歩行に不具合などなかったんですが、次のフロアへの通路を一本越えたらぬかるみの大地だったので転びまくってるネア・マーカスです。
以前ぬかるみ道は……水使いのお兄さんに抱えられてましたね。そういえば。
前回、二階層入り口付近の葛刈りを頼まれた時には最初のフロアしか覗かなかった事が悔やまれますよ。
「魔物の粘液らしいよ。このぬかるみ」
弟君はそんなものを鑑定しちゃわない!
つまり、ワームの体液とかナメクジの粘液がびっちりっていうわけですね!
「『清浄』!!」
ゆるい土、ほぼ泥が落ちてきて脱出が大変になったことをここに記します。
王子様護衛の警備隊の人達が道をつくってくださいました。頭はもちろん下げておきますよ。
「確かに魔物の粘液だと聞くと気味の悪さが増すし、嫌悪感も理解出来るよ」と慰められました。弟君によるとぬかるみを生み出しているだけで害はないそうです。足場以外は。
しょーがないので加熱することにしました。
粘液バキバキに硬化しましたよ。
「これで滑らない」
薄暗い地下通路てらりと加熱され硬化した粘液の成れの果ては確かにつるりと滑りますが、足をとられるほどではなくなりましたよ。
「ネア、この粘液硬化、ものすっごく硬いんだけど?」
ティカちゃんに言われて触ってみればつるりとしてて棒きれで殴打すれば軽く弾かれました。
これは。
「すっごく硬い。これ泥状の物持ち帰って好きな形に成形して焼けばすっごく便利では?」
外で再現性があるか確認は必要でしょうけど。
「わぁ。それはいいかもね! じゃなくて! 採掘の難易度が跳ね上がっているでしょ!」
弟君がボソッと「ノリツッコミ?」とかこぼしてますけど、ノリツッコミってなんですか?
「つ、通路だし?」
「本来調査されていた通路とはここ別じゃないのか?」
弟王子がまともそうなこと言いましたよ。
「周囲の土壌が崩れやすく、魔物の粘液で維持されているのなら正常な通路というものの存在もあやしいものじゃないのかと思うぞ」
弟王子のくせにまともそうなことを言ってますよ。
大丈夫です。うちの弟君も「え? コイツ大丈夫かな?」と言わんばかりの眼差し(たぶん)を弟王子様にむけています。そうですよね。そうなりますよね。
「いや、俺様お前らより年上だし、学都で学んでるし、学都では迷宮学習は基礎学習講座だからな!」
ここで真っ赤になって大きな声で主張するから偉い人っぽくないんですよね。意外だなって思われる印象をそれまでに与えすぎなんですよね。今までに。兄王子様にギフトスキルで小綺麗さを維持してもらっている弟王子様。
「一階層で葛刈りに戻るかい?」
警備隊のお兄さんたちがいいます。
「二階層を探索します」
ちょっぴり食い気味に二階層探索を主張しましたよ。
もう少し先まで進みたいんですよ。もちろん。
「二階層調査もままならない報告書であれば、講師から課題に良い成績を貰えないではないか!」
「え。それティクサー薬草園で敗北していたからでは?」
なに言っているんでしょう。この弟王子様。
「敗北、して、ない!」
わざわざ区切りながら宣言していただきました。
負けてないそうです。
えー。とは思いますが、二階層探索は私、しぶられている様子があるので(まだ一階層の葛刈りが間に合っていない)基本は流す方針ですけどね。今日は。
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