第360話 関係を間違えない

 人にとって『迷宮』とは上位種族である。

 迷宮にとって『人』とは代替のきく血液である。

 人にとって『迷宮』とは命を育む母であり、父である。

 迷宮にとって『人』は便利な駒であり、時に牙を剥く害獣である。

 人にとって『迷宮主』は迷宮へ人が交渉できる窓口であり、攻略可能な絶対者である。

 迷宮主とは迷宮が『人』を学んで生じもすれば『人』が迷宮核を取りこんで迷宮主に化すこともあるからである。

 人から転化した『迷宮主』は人に友好的か?

 いくつかの事例を追うに友好的で有り続ける事はごく稀である。

 それは人が人に絶望するようなものである。

 人が迷宮になればその人の有り様は百年渡るまに変質してしまう。

 記憶は記録になり、迷宮主としての感覚を持って迷宮を支配する。

 人の魂は迷宮主として五百年を渡りゆくことも厳しいものだと迷宮主の言葉が記されている。

『迷宮管理者』は人として生まれる。

 特徴は膨大な魔力。

 そして容易く迷宮を支配し思うままに処す。

 それはつまり現人神と言える。

 支配域においてできない事がないのが『迷宮管理者』だと資料には残されている。

 大陸を支配する迷宮管理者を世話する世話役。それが我々『神司』である。

 神司は外見で選ばれる。

 神司に選ばれた者は『迷宮管理者』に忠愛を誓い、子を残すことを許されない。

 故に孤児か、妾腹、先妻の子を放り出すには外聞が悪いが『神司』を目指し、教会の至奥院に放逐する。

 女児は捧げ者。男児は神司として。

 学ぶ事は迷宮の攻略。そして『迷宮管理者』のための技術。そう、茶器の扱い、髪の梳き方。結い方。衣装の着付けに詩歌や朗読。そして『迷宮管理者』を人が生きやすい世界を維持するために誘導する。

 そのための教えが至奥院には伝わっている。

『迷宮管理者』が座する迷宮の奥に単独で、しかも小綺麗な衣装で汚れなく攻略する方法も。各国の王との交渉もそこには指南書が伝わっている。

 個性を潰して『迷宮管理者』に相対せよ。

 覚えられるな。

 そうまずは習うのだ。

 そう。 

 千年近くを生きる『迷宮管理者』は人をほぼ憶えない。

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