第359話 秋深まる
裂いた獣の皮を編んだ上着や綿を織った布で作られた壁掛けがよく売られるようになったのは秋の期も後半、ティクサーでの秋祭りも終わり、冬の期に行われる王都への出展者も決まった冷えこむ日です。
王子様方が学都に戻るらしいので一緒に『蒼鱗樹海』に行って欲しいと依頼されましたよ。個人的にはブーイング案件ですが、断れないやつですよね。
「凍てつく冬が戻ってくるのかねぇ」
腰をさすりながら落ち葉を燃やすついでに干し芋を焼いてたおじいがぼやきましたね。確かに最近冷えますが。
「薄ぼんやりした冬でなんとか過ごせた頃しか知らないのでどうなんでしょうね? ただ夏は暑かったです。とても」
四季はあるんです。春だし、夏だし、秋で冬なんですけどね。迷宮がないと薄ぼんやりした平坦な期節になるようでして。その上で私は五歳からティクサーにいるわけですが、迷宮がないので薄ぼんやりした期節しか知らないんですよ。
「そぉかぁ。氷柱ができたり水溜りが凍ったり、地上には実のなる木から葉が全部落ちたりでなぁ。どうなるんだろうなぁ」
教会や領主館では薪は集めて乾燥倉庫にため込んでるって聞きますねぇ。個人的に乾燥させた薪というか、木材は大量に確保してありますよ。冬の期には商業ギルドに卸すとしましょう。
以前はそのまま立ち枯れる木も珍しくありませんでしたが、今は違いますしね。そのまま枯れるのは雑草くらいでしょう。しかも枯れるというか休眠というか、たぶん付近に種子ばら撒いてると思うんですよね。もちろん葛も寝てても元気で地下で根を膨らませていることでしょう。
「つまり、あったかい部屋の準備が大切ですね。……マオちゃんの寝床、もう少し綿を詰めた方が……?」
弟君が練習で編んだ皮紐ののれんを壁に掛けて隙間風対策はしましたが、通気性はとても良さそうなんですよね。ちなみに私の部屋にも掛けてくれてますよ。
「いや、獣人の多くは人より調節できるからな。やり過ぎてはいけないぞ。それにおっかさんがいるなら適切にするもんだ」
あー。確かに。
少なくとも私は不自由感じた事ありませんしね。
マコモお母さんの差配はカンペキですね。
私はルチルさんにもらったリエリーお姉ちゃんのお古に猪皮の上着と羊草の綿から編んだストールを巻いてます。あとルチルさんにつくってもらった『旅人の靴』ですよ。魔核を加工した魔石が取り付けられており、なんと、装着者の成長に合わせてサイズを変更させる靴です。魔石が壊れるまで使い潰せる一生モノですよ。変わるのはサイズだけですから時々、履き物としての手入れと調整は必要だそうです。そして私好みの厚底靴ですよ。
弟君がぼそっと「ああ、カサマシ」とか言ってたんですがそーゆーことじゃありませんからね!
「そういえば、薬草園三階層、安全区画が見つかったらしいぞ」
そう。ようやく安全区画まで辿り着くことができたそうです。ヤキモキしましたよ。本当に。
『帰還グミ』の生産魔具はすぐ理解されたらしく、魔力ギリギリまで『帰還グミ』を生産してから帰還グミを喰むという繰り返し作業に入っているので『ティクサー薬草園』ではざくざく魔力が貯まっているそうです。四階層のゴーレム系が経験値を上げていますよ。施設修復系経験値を。
戦闘力に関しては迷宮同士で模擬戦はしているそうです。互いに開示されていない階層に行って訓練しているそうです。強化度が上がりすぎた場合、深層階に配置換えをそれぞれ行なっているそうです。
『ティクサー薬草園』ならバティ園長が。
『蒼鱗樹海』ならエリアボス蛇が。
『魂極邂逅』ではたまちゃんじゃなく、邂逅ちゃんだそうです。
『天水峡連』では天水ちゃんが一手に好き勝手しているそうです。
うん。
エリアボス蛇がいなくなっちゃダメじゃないですか。どう考えても。
「マコモお母さんに止められてますよ。たぶん、学都から帰ってきたら普通に行っていいと言われると信じてます」
おじいがケラケラ笑って「過保護なおっかさんだ」と言いますね。
だから、私は笑って言っておきます。
「素敵な家族でしょ」
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