第358話 葛藤ぐらいします
迷宮の魔物は割り振られた魔力を基に魔核を生み出しその魔物になるそうです。
強い侵入者に対応できるように魔力を注いだ魔物であっても経験が足りなければそれより弱い冒険者にも倒されてしまうものだそうです。ポップしてすぐは経験が不足しているのでそういうものだそうです。
故に迷宮内を巡回して動くことで経験を重ねるそうです。同じようにポップした仲間と戯れて動きの経験を増す。そして生きのびている他の魔物と戯れることでより動きを洗練させてようやく、冒険者との戦闘にむかえるものらしい。つまり、エリアボス蛇のように経験を積んだ迷宮の守り手を一時とはいえ失っていいはずがないのです。
だからと言って『そのための存在』をつくるのもまた違うんじゃないかなと思っているネア・マーカスです。写本作成が終われば自由時間なので干し物手伝っていますよ。
ふっつーに迷宮核のなり損ないだけじゃダメなんですかねぇ。めんどくさい。
【魔力をためて、それを破壊に使われればより被害は大きくなるのでそれを防ぐためにも抑え担当の意識は必要になるでしょうね】
そうなんですか。
【おそらく迷宮の主体意識は薄ぼんやりした弱い者ではないのでしょう】
薄ぼんやり。
【おそらく、おそらくが続きますが、魔力を蓄積する魔核、つまり迷宮核がない。もしくは貧弱化した故の魔力不足の常態化】
じょーたいか。
【魔力不足というのは迷宮や魔物にとって食事がないということです】
空腹常態化。つまりおなかがすきっぱなし! それはツラいですよ。
【……ええ。ですからあたりかまわず魔力を奪っているんだと思われます。迷宮核がなければ蓄積できないので、おそらく、奪ってもすぐ霧散しているのでしょう】
あれ?
じゃあ迷宮核が有れば蓄積できるわけだから大丈夫じゃないの?
はて? と私は空を仰ぎ見ます。薄い水色で白い千切れ雲が散っていますね。
【飢えた子供が満足するまで摂取を続ければ、腹を膨れさせて自滅します】
え!?
なん、で……ぁ。自分で止められない上に循環に回せない?
【そうです。おそらくそのまま暴走するでしょう。ですから抑制する核が必要になるのです】
暴走……。
【飢え。飢餓。そこから派生する恐慌。迷宮核は無力な存在ではなく地上を荒らし近隣に被害を波及させます。宥め抑える者は必須なのです。いままでも魔力の高い者が命を賭して自らの国を守ってきたように】
知っています。
会えなくなった老人達。クノシーの方から訪れ、食料と物資をわけてくれた人が砦にむかって二度と帰らなかったことは両手の指では足りないのですから。
私は私の家族や大事だと思える者を守りたい。その生活を維持したい。
だからといって見知らぬ誰か、縁の薄い誰かを代わりに差し出したいわけでもないんです。
「ネア! なにぼーっとしてるのよ。干し物の手伝い終わったんでしょ。掘ったお芋焼くわよ!」
ティカちゃんがグイッと手をひきます。
反応をすぐに返せなかった私に振り返ってじっと視線があわされてぺちんと眉間を指で弾かれましたよ。
「ネア、またにぎやかなの苦手になってたの? お芋焼けたのもらってきましょうか?」
ああ、だめですね。
選ぶ必要があるのなら見知らぬ誰か、でしょうか?
でも。
それを選択するのは、決めたのは私、なんですよね。
ああ。
そうですね。私ですから、『私』は目を意識を閉ざしていてくださいね。
せめて『私』は何も知らないでいて欲しい。
ものすごく私は身勝手ですね。
迷宮で冒険者が命を落とすことは気にならないんですが、どうしてでしょうね。私自身にもわかりません。
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