第354話 家族

 最近、マコモお母さんに『ティクサー薬草園』禁止令が出されているネア・マーカスです。

「私のかわいいネアに安全性の低い場所を開拓させようという行為がさもしいのです。良いですか。私のかわいいネア。もちろん、貴女なら焼き尽くし先に進むのは容易いでしょう。ですけれどね。貴女はまだ子供です。露骨に危険な場所を制するのは大人の勤めですよ」

 そう言って、キッとグレックお父さんを睨むマコモお母さんですよ。弟君は「正論だよね」って表情で頷いてますよ。

「もちろん、もちろんだとも。『帰還グミ』は正直余裕はない。一人ひとつ必要らしいし、魔力ドレイン通路がどのくらい続くかもわからない。灯りをつければドレイン効果は減退するらしいが、狙って粘性の高いスライムが降ってくることは判明している。獣人たちの暗視はそれなりに効果はあるようだが、いかんせん気配遮断しているかのようなスライムたちなのがタチも悪い。十五才以下の冒険者は本当は禁止しておきたいところだ」

 十五才以上がいれば侵入可能なので何人か帰らない人が出ているそうです。

 一階層、二階層のノリで入って早々に麻痺スライムや腐食スライムに取り込まれてしまう案件ですね。

 迷宮強化用魔力コストが貯まりやすいのはありがたいのですが、迷宮自体を立ち入り禁止とかされると困りますね。

 一応、三階層への入り口には警備の人がいて警告は出しているそうですよ。未成年立ち入り禁止も含めて。

 今、よく潜っているのは冒険者のフォーゼンさんという人だそうです。火のギフトをそれなりに使うそれなりの人です。パーティメンバーは少数でどの組み合わせが一番効率的か調査しつつ進んでいるそうです。グレックお父さん曰く。

 迷宮としては最初の中継地点の安全区画にたどり着き、『帰還グミ』作成魔具(動かせない固定物)に気がついて欲しいところです。

「ネアも、行ってみたいなんて口にしてはいけませんよ? もし、どうしても行きたいのならお母さんと一緒ですからね」

「『蒼鱗樹海』や『たまちゃんチ』はいいのに?」

「『蒼鱗樹海』の一階層は地上と相似性の高い迷宮ですからね。広い分、浅い階層は安全なものですよ。まだ迷宮が若いこともあるの。『たまちゃんチ』は移動に試練という制限を個人にかけることで成長魔力を集めているのでしょう。ふたつとも初手から戦うことを求めている一般的な迷宮ですよ」

 え。

 その言い方では『ティクサー薬草園』が一般的な迷宮じゃないみたいじゃないですか。マコモお母さん。

「姉さん、『ティクサー薬草園』はたぶん一般的な迷宮じゃないと思うよ? 人に益する『豊穣牧場』だって攻撃性の高い魔物はいたでしょう?」

 ……いたっけ?

「穀物鼠とか、解体用熊とか、人喰い鯱とかいたでしょう?」

 えっと。

「可愛い、かったし、美味しかったよね!」

 弟君が声もなく『えー』って表情ですよ。

 あ。

 わかってます。わかってはいるんです。

 兎狩りにティカちゃんが苦労してましたし、それはトルファーム『回遊海原』でもそんなふうに苦労しているのは見ています。

「生来魔力の高さである程度の成長見込みは変わりますからね。『ティクサー薬草園』で幼少期を過ごすことは良いことでしょう。プチスライムとはいえ消失時の魔力発散の余波を浴び続ければ、魔力総量の成長に繋がり、健康になりますからね」

「まぁ、最低限に力があるなら『蒼鱗樹海』までの往復での薬草採取とかで体力をつけてもらって、その後、『蒼鱗樹海』最初のフロアで採取と兎狩りを頑張って欲しいところかな」

 マコモお母さんによる『ティクサー薬草園』フォロー後、グレックお父さんによる見習い冒険者理想のクエスト論ですね。はい。外れている自覚はありますとも。ええ。

 二人とも私の安全のために『ティクサー薬草園』三階層への挑戦を禁止してきます。

 行く気はないんですけど、なんていうかその。嬉しくて、そう照れ臭いですね。

 あー。

 弟君がなんかにやにやしていて嫌なんですけどー!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る