第351話 『蒼鱗樹海』一泊目
「魔力の扱い雑いわ。ネアちゃん」とタガネさんに空を仰がれ、「うむ。伸び代が大きいですね」と警備隊長さんに頷かれているネア・マーカス十歳です。
時々お見本見せてくださるんですが、が! 人の気配とか配置とかはなんとなくわかるんですが! 自分の魔力の出力と言われてもわかるようなわからないような感じです。
察しの悪い子、というか残念な子を見る眼差しはちょっぴり切ないですよ。
「わからないものはわからないんですよ」
むしろわかりたいしかないのに。悔しいです。
「いろいろ試してみたらええんよ。迷宮内の未踏域は破壊しほーだいやからな!」
タガネさんが爽やかですよ。
「難ありな意見ですが、どれほどの力でどれほど壊れるかを知っておくことは有意義ですよ。自らの命の危機でもなければ絶対に人に向けてはいけませんよ。ネアさん」
「あー? 一発真横にぶちかましときゃたいがいのヤカラは黙るわ。きちょー品には要注意やけどな」
警備隊長さんの忠告にタガネさんが被せてきますよ。そして警備隊長さんに睨まれていましたよ。タガネさん。
「いやぁ、やっぱ葛は始末せなあかんしぃ」
ぴゅーぴゅーわざとらしい音を立ててそっぽをむきましたね。
指定された葛を指定された形状で伐採して、出てきた魔物を掃討したりしました。
猪の対応とか虫系魔物(集団)の対応とかですね。
そしてフロア全体を燃やす。
燃やす時に葛は焼き尽くしてある程度の大木は残してとか細かい指示がついて、つい「はぁあ?」と声がこぼれましたよ。つまり火をつけた後、大きい木だけ燃えないように対応しつつ守る訳ですよね。ものすっごく面倒でしたよ!
成功したのは三つのフロアを焼き尽くして四つめのフロアでようやく成功ですよ。
ああ、もう。
「ティカちゃーん、つーかーれーたー。たいちょーさんもタガネさんも難しいこと言うー」
ティカちゃんに泣きついてやるぅ。
「あー、はいはい。野営の準備手伝ってくるからネアは休んでいるといいわ。疲れたんでしょ?」
「えー、ティカちゃんに一緒にいて欲しいぃ」
ちょっと甘えたーい。
「え。馬鹿ね。疲れたんならちょっと馬車の中で目を閉じてなさいよ。迷宮内での野営準備、初回を見逃す訳にはいかないのよ」
えー?
「二泊だからね。普通の野営との差を知るには機会が大事だもの」
えー。
そんなに変わるものですかね?
「少し休んで落ち着いたら出てくるといいわ。ちょっと待ってなさい」
ティカちゃんにぽんぽんとおでこ撫でられましたよ?
馬車の外でティカちゃんが弟くんに声をかけているのが聞こえてきますよ。弟君まわされてくるんですか?
ひょこっと覗いてきた弟君は「一緒にいてあげて」とトロちゃん入れてきましたよ。とりあえずトロちゃんには『清浄』かけますよ。馬車の中に泥は持ち込ませませんからね!
わぅんされて可愛くて撫で回しちゃいますね。
「ところで、ハーブ君のあの言い草はもしやトロちゃんは私のお守り要員……。ちょーっと不本意な気がしーまーすーよー」
今日の野営準備はどうもルチルさんが主力担当で明日は警備隊長さん達による準備だそうです。
錬金術師式の野営と警備隊式の野営と行商人の野営はそれぞれ方式が違うらしく、見慣れない行為に対する感心や驚きの「へぇ」や「え?」「ほう。便利だな」という声が時折り聞こえてきますよ。
「楽に快適に過ごしたいじゃなーい」
クノシー往復の野営地でもルチルさんは魔道具や便利な錬金術道具を散々駆使していたものです。
そう、ルチルさん主体の野営はとても便利で楽です。使える物は使う派のタガネさんとの野営も正直楽でした。それまでのティクサーでの生活の方が正直キツかったくらいですからね。
毎食お肉がありましたからね!
汁物にも味がありましたからね!
そして体は食べれば疲れ難くなるんですよ。スゴいですよね。
確かに野営地に辿り着かない野営と野営地にたどり着いての野営は違ったかなと思います。……どちらかと言えば、国を移動して道々人と会うようになってから目立って便利だと思える物を使い控えていたように思い出せますね。
「迷宮の安全区画だし、他のパーティもいなければ、警備隊もいるのヨォ。一番実験したい便利道具を使う最高の機会だわぁ。あら、ティカちゃんも使ってごらんなさいね。そして使いにくかったら教えてねぇ。もちろん、警備隊の皆さまもヨォー」
華やかなルチルさんの声が届きますネ。
「ネアちゃん、生きとるかぁ?」
ひょいと入ってきたのはタガネさんです。生きてますよ? 死んでませんよ?
「お、おきとーな。夕飯の食材出してくれるか?」
あー、ドロップ品けっこうありますからね。
「はぁい」
猪の腸詰めの在庫は増えましたよ?
あと猪の後肢、兎の塩干し肉、焼き栗と焼き林檎と、ゴソゴソ出してたら「そんなもんでじゅーぶんじゅーぶん、あとはもうちょい死んどり」と手を振られましたよ。
「ネア、生きてますぅ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます