第349話 現状確認ならぬ現実逃避

 管理空間でちょっと地図を広げて見ている管理者ネアです。

『蒼鱗樹海』は一階層だけで結構広いんですよね。

 ひらけているのはやっぱり入り口付近の二フロア。まあ、それに連なるフロアもそれなりにひらけつつはありますが。

 なんというか、はい。ほぼ森になっていますね。

 桃とか桜とかの植樹はサクッと回収して花の美しい木の保存区画に植樹されていますね。地表部分でもその辺は街道から外れているそうです。発見され難いですよ。ルチルさん。ズラされてます。

 エリアボス蛇が一番最初に陣取ったフロアはまだ誰も到達してはいないようです。蛭と小蛇たちは浮草の下に潜みくつろいでいるようですよ。大ぶりの枝にはそれなりの大きさの蛇が巻きついています。実はコレ情報共有している最中だとエリアボス蛇が教えてくれました。ある程度の大きさになると蛇たちは巡回するようになるそうです。彼らは率先して戦うことはなく、冒険者たちの行動や使用ギフトスキルを確認し、同胞に共有するために戻ってくるそうです。エリアボス蛇が冒険者たちの戦力分析に活用しているそうですよ。あと地表にも普通に偵察に出入りしているそうです。迷宮産の蛇たち。

 それは別にいいんですが、この蛇と蛭フロア、薬草が豊富ですよ。あと小さな白い花が咲く木がたくさんあって葛はあまりなく、小さな菊が低い位置でふわふわゆれていてお花摘みに行きたいね。という気持ちになってしまいそうですよ。森の中の花園って感じなんですよね。浮草もちらほら花が咲いてるので超平和的な風景だと思います。

 隣のフロアは熊の家族が三家族ほど寛いでます。蜂の魔物とうまく共存しているようですよ。

 一階層の主戦力は数の多いウサギと猪ではありますが、ごく稀に彷徨えるハグレ熊という強敵がいるんですよね。

 ルチルさんやタガネさん、隊長さんからすれば瞬殺案件なんでしょうけどね。

 ティカちゃんの目標は猪単独撃破だそうです。スキルを磨いたり、突きを磨いたりしているようですよ。

「エリアボス蛇の管理力すごいね」

 褒めれば嬉しげに空気が動きますよ。出入り禁止にしてなければ管理空間に私がいるとするするみんな寄ってきますからね。お仕事の邪魔ではありませんか? と尋ねれば真顔(?)で『主人のそばに侍る。一番大事』という内容の答えをそれぞれに主張されました。

 嬉しいというか、気恥ずかしいというか不思議な気持ちになりますね。

 各迷宮には主力意識は二個体から三個体存在しているはずなので管理は問題なく行なわれているんでしょうが気にならないわけじゃないんですよね。

 天水ちゃんのとこ以外は冒険者がすでに入っているし、単独強者が迷宮核まで目指した時の危険性とか。

『蒼鱗樹海』はこの広さで冒険者の侵攻を防ぎ、『ティクサー薬草園』はそれぞれの階層への扉に条件付けすることでその間に階層を深め、『魂極邂逅』は転移門を繰り返すことで位置関係を混乱させることで時間を稼いでいる現状です。

 まぁ、『天水峡連』天水ちゃんのとこは天水ちゃんのとこで魔力循環うまくいっているらしいですがちょっと心配は心配なんですよ?

 まわりで成長した冒険者が侵入して一気に攻略されちゃったらどうしようとか。

『否。水流路、大顎類最強』

 えっと。本当に大丈夫?

 ん?

 水流路?

『是。水流路。大顎。爪魚棲息』

 そうぎょ?

「えっと、水の中、通らないと先に進めない場所がある?」

 しかも凶悪そうな魔物が徘徊している場所。

『是!』

 得意げですね。天水ちゃん。

 つまりいきなり攻略されちゃうことはないんですね?

『是。『天水峡連』『蒼鱗樹海』同等範囲!』

 ……。

「つまり、一階層がかなり広い?」

『是!』

 ちらりと魔物図鑑をめくると『爪魚』はいわゆる肉食魚でした。

『天水峡連』は『蒼鱗樹海』と同じ広さを持ち、かつ高低差が激しい地形だそうです。そういえば入り口のひとつ急流でしたね。王都の地下水道にも入り口は隠蔽状態であるそうですよ。スライムと水域で進行不可だそうですが。

『格子戸浸水済水路!』

 普通に考えて侵入避け(人間にとっての)を利用中ですか?

『是!』

 園長等の突っ込みが入らないと元気ですね。天水ちゃん。

『是。園長ツンガチ』

 ツンガチ?

『あまりわからない言葉を周囲に撒き散らさない』

 あ、園長ですね。

『お茶をお淹れしますね。『蒼鱗樹海』のお手入れは如何ですか?』

「ありがとう。お手入れは進んでいると思います。ただ、ほんとに広いなぁと。私が子供なのもあるんでしょうけど」

『そうですね。昼時にクノシーまでの中間地点にたどり着いたのですから進んでいると思いますよ』

 にこりと園長が現在地点を教えてくれました。

 それはもう、迷宮の中ではそんな道の短縮ができるのか、はたまた鳥馬の馬車が早いのか、判断に困るとこですね。

「またおしゃべりしましょうね。天水ちゃん」

『是』

 ふわりと天水ちゃんの甲羅で白い花が揺れましたよ。


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