第337話 情報のすり合わせを

 秋の期半ば、何度か『蒼鱗樹海』と『魂極邂逅』に伐採探索に行き環境整備に抜かりなく使われているネア・マーカス十歳女児です。管理空間にご招待なのは弟君肉体年齢七歳ですよ。はい。

 おはなししてみましょうと思います。

「相変わらず殺風景ですね」

 エリアボス蛇も園長も、天職の声さんもトカゲ氏もトロちゃんも侵入禁止ですよ。ええ。

 って、殺風景?

 お互いが確認できるだけの空間ですから、確かに殺風景?

 ではお茶をするためのテーブルと椅子を。ん。クッションのきいたソファーの方がいいかな? エリアボス蛇呼ばないし。

「テーブルセットとソファー?」

「寛いでおしゃべりしましょう!」

「コレ、どっから出たんです?」

 ソファーを見ながら弟君がこだわりますよ。

 しょーがありませんねぇ。教えてあげましょう。お姉さんですからね!

「思い浮かべながら魔力をこめるんですよ。出てこーい。って」

「出て、こい……」

「ですから知っている物がいいんだと思います。この椅子もテーブルも見慣れて使い慣れている物ですね」

 白いラウンドテーブルに揃いの椅子。ちょっと硬いかなと思ったので、ソファーも出しましたね。ふわんとくつろげる鳥の巣ソファーですよ?

 プチテーブルが真ん中に置かれています。

 かわいいでしょう!

「イメージして、魔力を、こめる……」

 はい。その通りです。でもね、少しくらいソファーの可愛らしさを褒めてもいいんですよ? 白いラウンドテーブルセットも繊細でかわいいと思いませんか? 私のセンスではないんですけどかわいいでしょう? この再現性は愛用品ゆえですよ。

「シンプルに」

 ガラスのコップ?

「おお。できた。けっこう魔力いるね」

 弟君はとりあえずとばかりに透明なガラスコップを作りましたよ。長くて細くて飲みにくそうな感じですよ。

「じゃあ、中身を」

 ジッとコップを注視しているのでつられて私もジッと見つめます。

 シュワっとした液体がコップに満ちます。透き通った緑色ですよ。コップの外側に水滴が生じて中身が冷たいんだとわかりますよ。

 真っ赤なさくらんぼが、白く丸い塊が液体に浮かべられてすごく色がきれいですよ。

「スプーンとストローを差してできあがり。フロートドリンクはメロンソーダが定番だよね」

 ほっそり長い銀のスプーンと白くて曲がりの蛇腹付きのストロー。

「すっごーい。かわいい!」

「どうぞ。召しあがれ」

 弟君がにこにことフロートメロンソーダ(?)をすすめてくれます。

「いいの?」

「氷菓だからおなか冷えそうなら量は食べちゃだめだよ?」

 作ったの弟君なのにー!

 他にも弟君はいろいろ作ってくれたんですが、私、ぷりんあらもーどが気に入りました。

 広めのガラスの容器に硬めのプリン。たくさんのフルーツ。そしてキュッと絞られたクリーム。

 美味しくて可愛くてプルプルですよ。黒いからめるがほろ苦くて他の甘さをとても引き立てています。

 いやぁ、もう、弟君に対して「おいしー」「かわいいー」「しあわせー」と語彙力死んだ言葉を送り倒しましたよ。弟君も嬉しそうにいろいろ作ってくれて……。たぶん、お互いに目的を忘れてエンジョイしてましたね。

「は! つい思うままに出現するのが面白くてハマってしまってた」

「ハーブ君、美味しくて可愛いの作るの上手ぅ」

 美味しいは至福ぅ。

「ありがと。姉さん。それで、えっと、おしゃべりを誘ってくれたのは僕に助けて欲しいってこと?」

「ううん。協力はしてほしいけど、助けて欲しいのとはちょっと違うの。ハーブ君に助けてもらうとなんかイヤな予感がするんだよね」

 正直に伝えておくね。

「姉さんが困ることは特にないと思うけど?」

「実際のところ、なにに対して私が困るのか弟君にわかるの? 私と弟君そこまでわかりあってないと思う。でも、うん。もう、家族だよね、って私は考えているんだと思う」

 よくわからないなりに弟君に私への害意がないことが理解できてる。でもだからと言って無制限の救済の手が欲しいかといえば、違う。

 美味しい物は欲しいし嬉しいけど、違う。

 自由には義務がある。

 無制限の救済に対する対価は絶対にあると思う。

 迷宮を管理する私にはたぶん権利と義務がある。支配した迷宮への魔力供給、迷宮を運営する彼等への誘導教育……そして、おそらく『オマツリ』の駒としての私。

「偽家族になって一年も過ぎてないのにもう家族?」

「家族でしょ。マオちゃんなんか私より懐いてるじゃない」

 ずーるーいー。

「プリンおいしー。外でも作れるの?」

 お口の中でとろけるよー。

「材料さえ揃えばね。あと混ぜる体力と技術かな。まだ僕の体力ではキツイから」

 あー。七歳児体力だと調理に向かないみたいなこと言ってたよね。じゃあ、弟君はまだ誰かを助けようとするよりまず自分を育てるべきでは?

「ふぅん。私もハーブ君もまず体力って感じだよね。あ、ハーブ君」

「なに? 姉さん」

「今度、トカゲ氏シメていい?」

「トカゲ氏? ……もしかしてカシリのこと!? なんでしめんの!?」

 甘夏寒天とかぼちゃのパイで誤魔化されたわけじゃありませんからね!

 ちゃんと機会をつくって情報を引き出してみせますよ。

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