第332話 おはなしは娯楽

 一人タッズさんのおはなしを聞いていたらティカちゃんに「ズルい」となじられましたネア・マーカスです。

 この世界、趣味の世界がないわけではないんですが、資金にゆとりがないと縁遠いわけで、主力の娯楽は『おはなし』や『歌』『うわさ話』に寄っているんですよね。そんな中、一人おはなしを聞いていたら、まぁ、「ずるい」となじられるのはありがちです。

 教会でも小さい子向けにアレンジされたどーとく系のおはなしはみんな大人しく聞いています。ちょっと怖い話(娯楽兼脅し)も混じり気味ですしね。

 ルルドくんもちょっと「おまえずるい」という視線をむけてきますよ。でもルルドくんはこれからいくらでも機会あるでしょ?

「お夕飯の時、おはなしきかせてくださいね。タッズさん!」

 ティカちゃんがいきなりお願いしていましたよ。圧が強いです。

「だって、ルルドたちはこれから機会多いけど、私はティクサーに帰るし。……学都で過ごした話とかおもしろいお話しがあるなら聞いておきたいしぃ」

 学都で集めたというあたりを聞きつけていたんですね。

「正直なところ、おもしろい講座とか役に立つ講座とか費用とかも知りたい」

 むちゃくちゃ打算だね。ティカちゃん。

「だって、今貯めている学都用資金でどこまで過ごしやすいかわからないんだもん。迷宮学都って物価高めだし。たぶん、私くらいの『治癒』ギフトの使い手は多いだろうからどこまで稼げるかわからないし、余所者が治療権持てるかもわからないんだよ」

 治療権?

「十分に人いる場所だよね。勝手におしごともできないの。だから冒険者ギルドや商業各種ギルドがあるのよ。所属していないと労働の権利もないの。納税の義務はあるけどね。あと、学都は野宿禁止で罰金罰ありよ。迷宮内野営は認められてるけどね」

 結構詳しいですね。ティカちゃん。

 さすがお兄さんとお姉さん(学都の卒業生)からも聞いているだけありますね。

「姉さん、野宿禁止のルールは案内書に書いてあったよ。ティカちゃんとも一緒に読んだよね?」

 そう、でしたっけ?

 そうだったかもしれませんね。

 きっとそうですね。すっかり忘れてましたよ。

「姉さんは冬になったら案内書類全部読み直すべきだと思う」

「それは楽しそうだね」

 楽しみかも知れない。

「夕食後のすこしぐらいで良ければ。夜の教えを受けるには疲れは大敵だからさ」

 タッズさんが了承してくれましたよ。

「楽しみだ!」

 ルルドくんが嬉しそうに声をあげましたよ。

「夕食は厨房の担当の人に壺煮の材料を渡したから壺煮になるんじゃないかな。ティカとネアはそろそろ一度帰るんだろ?」

 そうですね。一緒に食べるなら今夜のごはんでしょう。猪の腸詰(加熱済み)ウサギ肉の塩漬け、甘芋とツル豆、タマネギを壺に入れてしっかり蓋をしてそれをかまどに突っ込んでおいて、同じ火で他の料理もできる便利メニューなのです!

 アルラウネミニからドロップした魔力回復薬を夕食時にタッズさんに提供しようと思います。仮眠を取らせずにおはなししてもらうというのですからお礼は必要でしょう。

 迷宮に必要なものは迷宮内を循環する魔力ですからね。

 伐採後のあたりは倒木やらなにやらが散乱していますが、骨狗さんたちが対応してくださるそうです。有償(魔力)で。

 魔物の死骸も迷宮に取り込み処理してくれるとのお話なので必要な部位だけ確保で放置で良いそうです。つまり、肉岩石から採れる加工肉の原料になるかもしれない?

「たまちゃんの迷宮、すっごく便利ね。ダメ人間になれそう」

 ティカちゃんが呟き、ルルドくんも頷きます。

「対価が必要とはいえ狩った魔物の処理とか倒木の処理とかは必要最低限のあたり前だから支払われている対価があることと本来必要なことは忘れないようにしていかないとな」

 そうですね。普通は全回収が望ましいんですもんね。

「姉さん、持っていけない肉は燃やすとか埋めるとかの処置をするってことだよ?」

「わ、わかってますよ!?」

 夕食も夕食後の時間も楽しみですね。

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