第331話 周辺整備しつつおはなしを聞く

 迷宮を出て、周囲を軽く伐採してまわっているうちに『固定』ギフト持ちの……確か……タッズさんが現れましたよ。

「ここんところに道をひいときたくてね。ちょっと邪魔するね」

 なにをするのかと見ていれば、雑草の生える地面を軽く削ぎ剥いでいきますよ。むき出しの地面に灰と木炭を撒いて踏みかためて『固定』していくようです。暴れ蔓草が木炭の道を忌避するらしく、町の周囲に炭の道をひくのがタッズさんのおつとめだそうです。

 それぞれにお勤めが決まりつつあるんですねと感心しているネア・マーカス、自由人ですよ。

「お。タッズがいるんなら迷宮に戻るわ! タッズ、チビども頼むぞ」

 オッさんがそう言って迷宮に駆けていきましたよ。

「あれがギルドマスターな大人」

「ギルマス……。っあ! あれは真似してはいけない、わ、悪いお手本だから! みんなま、真似しちゃだめだよ」

 タッズさん、たぶん誰かに何かを伝えること慣れてない感じですね。親近感を覚えますよ。

 地面を一度ひっぺがしているのは『剥離』というギフトスキルだそうですよ。上の雑草もついでに消えるので道にしたい場所をひっぺがして、暴れ蔓草よけを撒いているそうです。

「こうして森を整備しておけばついでに薬草や木の実も手に入るしね。転移陣の試練に備えないと」

 小さく冗談めかして言うタッズさんはいい人だと思います。

 それとなく伐採の位置指定「あのあたり」とか「道に木陰は欲しいけれど、鬱蒼とし過ぎてたら困るよね」などとヒントをくれますよ。ありがとうございます。

 行き過ぎ伐採でも、日々の手入れには人手不足なので「問題ないよ」と笑ってくれました。

 出てきた魔物をティカちゃんとルルドくんが弟君の補助を受けながら狩っている間、すこしだけ『遠浅の国』のおはなしをタッズさんはしてくれました。戦闘中はおとなしくしているのがいいからね。とひ弱に微笑みながら。


 タッズさんが話してくれた内容は『遠浅の国』が帝国の流刑地であり、以前は帝国に入り口があったとされている迷宮『流玄監獄』があるということ。建国からおおよそ千を数えるという大国は違いますね。『流玄監獄』が切り離されたのは八百年前だそうです。記録しているんですね。すごいです。

 すごいですね。と伝えると「記録を見るのが好きでね。学都で学ぶ機会は得たものの迷宮にはあんまり行かなかったものだから、その、稼げなくてね。すこし気に入ってくれた先生が在学費を都合つけてくれてたけど、さすがにもうね」とティクサーまで流れてきたきっかけを教えてくれましたよ。知ってます。こういう人が資料室とかの主になるとすっごく便利になるんですよ。

「てんで役に立たないんだけどね」

「そんなことないですよ。私はもっとおはなしききたいです。八百年前になにがあったんですか?」

「そうかい? ただ八百年前になにがあったかはわからないけれど、迷宮学都を治めるロサ家が大きく力を持つようになったことと他の地域にも多くの災害があったらしくて『失われた期間』と呼ばれる記録の薄い数十年があったみたいなんだ。もしかしたら禁書庫にならなにか記録があったかもしれないけれど……。そこまではいけなくてね。もう少し頭がいいとか、要領がいいとかあればよかったと今でも思うよ」

 帝国にロサ家有りですか?

「どうかした?」

「ロサ家は権力が強いんですか?」

「うん。強いと思うよ。皇帝家から何人かの皇女が降嫁したり、ロサ家の当主に妹や複数の娘がいたなら皇帝家に嫁いだりでかなり血は近いだろうしね。次期当主ネイデガート様も第一夫人に皇女の方が降嫁なさることは発表されていたよ」

 すっごいズブズブの関係ですね!

 迷宮神子の家系か何かかと思っていたんですけど?

 ほら、あの九歳児みたいな。

 ……。迷宮神子も素養的なモノもあれど基本は強くなければいけませんでしたね。迷宮との交信を安定させるためには魔力の低さは許されないのです。

 血統による心身の初期強度はある程度固定化される傾向があります。『私』も魔力は高いですしね。ただ、私がおもてに出たことで魔力増加した可能性もあるんですよね。

 そのあたりは謎ですね。

「受験した時にこーしゃくけのお姫様を見ましたよ」

「それは代行様のご令嬢だと思うよ。春から進学なされると聞いているから」

 そうなんですよね。

 受講する講座があまりかぶらないといいんですが。

 これは私自身もですし、ティカちゃんもです。

 だってお貴族様って面倒そうで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る