第330話 ずるい子
あの子イイなぁ。
そう思った。
しかたないじゃない。お父さんもお母さんも気を配ってくれる兄妹だっている。私は持っていないものばかり持っているんだもの。
その上、ギフトも才能もあってあんなともだちまでいるんだ。不公平だなぁって思うじゃない。
お父さんは私が物心つく前に鉱山迷宮の呪いで死んだし、私と兄を連れて迷宮のある町に移った母はある日帰ってこなくなったし、兄は食事はなんとかしてくれたけど、機嫌が悪ければすぐ殴って怒鳴ってきた。
失迷の国から流れた移民街だったからかろうじて生きていけた。
物心つく前に出た鉱山迷宮(当時のものとは違う迷宮)に帰ってくるなんてなんだか私、どこまで呪われてるんだろうって思うじゃない。
私は兄を見捨てて失迷の国に戻ってきた。戻ってきたかったのは兄だったのにつまらない喧嘩をして殴られた兄を見捨てた。怪我の治療費なんてなかった。
傷を治すスキルギフトももってない。
それより殴られない。怒鳴られないことにホッとした。
そんなことで起きなくなるなんてわからなかった。
だって兄に殴られても痛くても眠れば朝がきてたから。
気がつけば、私はティクサーの教会の孤児院で寝泊まりしていた。そして鉱山『たまちゃんチ』に送られた。
自分の意志で迷宮を楽しみに来ているあの子とは違って。
仕切りが上手な子は殴りも怒鳴りもしない子でホッとした。
この中ではそれほど目立つ存在ではなくてホッとする。
みんな「家族とはぐれた」「捨てられた」「自分だけ生き残った」そんな言葉がこぼれ出ていてすごく安心した。仕切りが上手なルルドだって両親はいないのだ。
「狙いはルルド? それとも王子様?」
聞けばぱちりとわざとらしく目を瞬かせた。親が用意したであろう少し大きめの服を丁寧に幅広の生地で遊びが出ないように調整されている。きっと少しゆるめればかわいい普段着、しっかり締めて冒険着にと考えられている服装だ。そんなところからも余裕と愛情を感じて苛立ちが募る。彼女は年下だ。でも止まらない。
どうしてこんなにうまくいく子もいるの?
それなのにどうしてこんなに近くにいるの?
すこし言葉の意味を考えていたらしい彼女の表情に嫌悪がのる。
「バッカじゃないの? 寄生先に他人狙うくらいなら自分を育成するわよ。っくっだらない」
波打つ茶髪を自ら払って睨んでくる。
「事前に忠告しておくけど、ネアに絡んだら酷い目にあうのはあなたよ。人に絡むくらいなら自分のできること伸ばしたら? それとも、ただの雑談のつもりだったかしら? 話題はもう少し無難に選んで?」
反論できなくて拳をぎゅっと握る。
「ま。私はネアに追いつくのに必死だから他人なんて構っている暇はないの。学都受験の勉強もあるし。忙しいのよ」
まず、迷宮に慣れなくちゃとぼやく彼女はどこまでもまっすぐに見えてなお惨めな気持ちになる。
強くふわふわした友人の親愛を得て強く優れた立場を持つ者からもあたりまえに信頼を得てる。だからこそ持たないなりに努力するルルドにも頼りにされている。それなのに、それをどうでもいいこととばかりに投げ捨てることができる彼女の在り方がズルくうとましい。
「ねぇ。好きな男の子がいた? 私なんかはホント今余裕がないから考えていないんだけど、もしそうなら、ちょっと配慮がない言い方だったと思うわ。私はただ、ネアと学都で遊ぶのに気兼ねない実力と資金を稼ぐのにええ。本当に専念しているから。ごめんなさいね」
遊ぶのに必要な実力と、資金?
「奢ってくれそうじゃない?」
あの子気前良さそうだし。あの子にとってはとるにたらない金額じゃないの?
「私、友だちでいたいの。すがりたいわけじゃないわ。たとえそうでも、私がちゃんと立っていられる基準は必要なのよ」
ああ。
「私、あなたが嫌いだわ」
まっすぐに在ろうと進む姿がものすごくズルくて振り返った時に虚ろな自分がどこまでもみじめだ。
「そう? 私、思ったよりはっきり意見を持っている貴女のこと嫌いじゃないわよ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます