第321話 迷宮探索講座『死霊系迷宮』①
坑道は暗がりもありはしますが、基本的には灰色めいた岩壁と床を問題なく視認することができます。とりあえずボーンアニマルがちょろちょろしているのと遠巻きにゴーストがチラつきます。さっきまでの坑道と同じ魔物がうろついているようです。
「階層が変わったわけでもないからな」
つまらなさそうにイゾルデさんがボヤくのを聞いているネア・マーカスですよ。
「最初の階層からぶっ飛ばされてたまるかよ。初心者から中級者が育たねぇと迷宮の魔物狩りに不具合出るだろうが」
鍛治ギルドマスターがイゾルデさんを叱ってますよ。鍛治ギルドマスターはどうやら周りの人達に「オッさん」と呼ばれているようですね。年長者だから?
「おっさん?」
「オッターつーんだよ。おっさんだからオッさんってわけじゃねぇ!」
いや、おっさんでもあるだろと誰ともなくこぼしてますね。和やかです。
半素人集団ゆえの緩みな気がしますね。視認範囲の魔物はいつでもぶちのめす心算はありますが。まぁ、気を抜くと全部イゾルデさんが狩り尽くしかねない勢い……でもありませんね。「飽きた」と武器をしまって十四歳未満の指導にあたりはじめましたよ。
大人組にひとまず狩りと子供たちの護衛を言いつけています。
「お、待て待て。採掘採集班と護衛討伐班に別れよう。で、休憩挟んで交代すりゃ本人の適性ややりたそうな希望もわかりやすいだろ。どっちにしろ、迷宮入り口の町なんだから一階層くらいはなんとかこなせれるようになるのがおまえらの目標な。たまちゃんに奥の階層造るからちゃっちゃと来いと言われても慎重に行こう」
ドンさんが方向性修正ですよ。
では。
「私は採集班ですね!」
「お、おう。そうか。採取し尽くすんじゃねぇぞ」
ドンさんが意外そうですが、ネアは基本採集者目指してますからね?
「さー、新しい採取場だ。掘るぞい!」
オッさんが嬉しそうに雄叫びをあげて採掘ポイントを探しはじめますよ。あれ、いいんですか? 魔物がオッさんを検知して襲いにむかってませんか? あ、ツルハシで跳ね飛ばした。ドロップ品拾って舌打ちと共に「シケてやがる」発言はたまちゃんの矜持に障らない?
アレ?
私よりよっぽどアレでは?
「オッさんは採集班なんだから魔物倒してんじゃねぇよ。二、三発殴られたり齧られても平気なんだから護衛討伐班の糧になってろよ」
ドンさんが非道なこと言ってますよ!?
オッさん、舌打ちして「しかたねぇな」って、え。そのまま採掘!?
「おい、採集班」
そばで様子見していた採集班がオッさんに視線を向けます。
「物理は基本護衛討伐班がヤる。ボーンアニマルも一応視認できるし、なんの予兆もなく現れるわけじゃねぇ」
そうですね。物理的に存在してますし、リポップは基本的にリポップポイントが複数あってそのどれかから乱数でポップするはずです。
「だが、ゴーストはそうはいかねぇ。じゃあどうするか。わかるか? ネアとハーブ坊以外で答えてみようか」
え?
どうして私と弟くん以外?
「ぁん? ああ。ハーブ坊は『鑑定』もあるし、他にも従魔がな。んでネアはクッソ強固な『清浄』及び物理があるだろ。ゴーストもぶっ飛ばす。お前らそれで解決すんだからいいんだよ。だから、それ以外だ」
ぐぐぅ。反論できない。
「魔除けのお守りを持っておく?」
「多少は有効だ。一撃で死ななければ逃げられるかもしれないな。ちゃんと死霊特化のお守りならもっと安心だ」
お守りは魔物の魔核を加工してつくるそうです。販売は教会か冒険者ギルドですが、無理を言えば魔道具ギルドか錬金術師ギルドでも注文できるそうです。オーダーメイドお守り。
「……。効果あるんだろうけど、お守りはちょっと高いなぁ。効能も回数制限あったりするし」
「死霊避けの魔法陣を描いて採取する?」
「採取で描いた魔法陣を消しちゃわない?」
ぽつぽつ出たゴースト対策にオッさんはうんうんと頷いてベルトを外してぶら下がるホルダーを見せてきた。
革製と思われるホルダーには液体の入った小瓶が数本。
「見つけた採取場付近にこの聖水を撒く。最初からたまちゃんの迷宮はゴースト及び死霊系傾向が強い。なら、使い捨てではあるが、お守りより安価ぎみな聖水を買って採掘が正解だ。聖水が乾ききるまでそこにゴーストが干渉することはできないからな」
へぇ。そういえばイゾルデさんとオッさんは聖水無双したんでしたっけ?
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