第316話 駄迷宮リリースできない
魔力の消耗は半端なくて、ガンガンと頭が揺さぶられます。魔力回復の水薬を一気飲みして咽せている迷宮管理者ネアです。
ここはおそらく『流玄監獄』の迷宮管理空間ですね。
檻の中ですが。
もう一度主張します。檻の中ですが!
『いや、監獄ですからな?』
長身痩躯。白のドレスシャツに黒のジャケットとズボン。黒縁の片眼鏡からは紫の宝石とうっすら翠の入った透明の魚の鱗のような飾りが揺れている初老の人がゆらりとその手に持つ杖を揺らしていますね。
天職の声さんの気配は遠いですね。
『他の迷宮関連者の干渉は遮断しております。面接に部外者を挟みたいとは思いませんのでご了承を』
いや、それはいいんですが。うん。
「キャッチアンドリリース予定なんだけど?」
ええ。私といたしましては。
『流玄監獄』さん、管理支配は一時的なもので放棄する予定なんです。
『は?』
「支配後放棄です」
『支配後放棄』
繰り返す『流玄監獄』さん。
『なんのために支配を?』
どっちかと言えば思わずという感じで言葉をもらしてますね。
「魔力増強の為ですよ」
あと情報収集にも使えるんですよね。一応。
ため息と共に額に手をおいて頭を左右に振りやがりましたよ。『流玄監獄』さん。
『マツリまで十年あるかないかの管理者のお言葉がコレとは。では、放棄ではなく廃棄でお願い致します。おそらく一時的魔力成長の足しになりましょう』
は?
「廃棄するわけがないじゃないですか」
なに言ってんですかね?
「しっかり情報源化して『月砂翠宮』の盾として活用しますよ。あと、他の迷宮関連者を弾ける機能はちょっと興味深いですね」
そう、これはまぁ想定内なのですが、天職の声さんも『迷宮のなにか』なんですね。いい情報です。確定とは言い難いですが。
「この排除空間を私は承認します」
ほんの少しあった圧迫感が消えましたね。
さて。おはなしを詰めましょうか。
警戒マシマシの眼差しが十歳女児に向けられていますよ。十歳女児ですよ。
「で、『マツリ』ってなんですか?」
『なぜ、知らない!?』
驚かれたんですけど、さすがにちょっと理不尽だと思いますね。
「天職の声さん(仮称)は伝えてくれてませんし、アドレンスの四迷宮からもなにも。ただ四迷宮はこの春の期からの活動ですし、知らないもしくは重要視していない可能性もありますね」
少し冷静さを取り戻したのか、『流玄監獄』さんはゆらりと杖を揺らしています。殴ってきたら攻撃し返そうと思います。
『マツリは『迷宮管理者』の権力抗争です。そして、条件等に関して発言に我々迷宮は制限を課せられております。具体的な一例を出すのならわたくしは存在を砕かれ辞する事も許されておりません。それゆえの『監獄』ですな。……そして、これ以上の発言は制約がかかりまして発言は叶いませんな』
権力抗争……。
えー。興味ないですよ?
『強くなれなければ蹂躙されるだけでしょう』
えー。
『そういうオマツリ』なんですかぁ?
めんどくさーい。
「ネアは、自分の周囲だけ平和だったら満足な小物なんですけど?」
正直に告げてみますよ。
『そのようですな。『マツリ』には残念ながらお相手がおります。『マツリ』の情報は個々がこま切れに保持している為、準備には差が生じましょうし』
んー。
私の希望を通したくば、お相手をなんとかしていけって事?
天職の声さんも四迷宮も情報を持ちつつ制約があって沈黙の可能性もありますね。現に『蒼鱗樹海』ちゃんはひたすら沈黙を守ってますし。代弁者にエリアボス蛇がいるので不満だというわけでは有りませんけどね。迷宮核と迷宮主どちらも主張している迷宮は居ませんからね。迷宮守護もいるはずなので三人。流石に三人ともが主張薄いのは『蒼鱗樹海』だけですけどね。
園長は『ティクサー薬草園』の迷宮核ですし。
たまちゃんは『魂極邂逅』の迷宮主。
天水ちゃんは『天水峡連』の、多分迷宮核。『回遊海原』の迷宮で会った迷宮核兼迷宮主に近い感じですね。あの、迷宮核に触れるもんなら触ってごらんと言わんばかりの空飛ぶ海獣。
んー。
そういえば、帝国の迷宮たちもよく『支配するか?』と聞いてきてましたね。教えてくれる気があったって事でしょうか?
なんとなくですが、実父、もしくはそこに関わる誰かはある程度情報を保持していたから『弟』くんを呼び寄せた可能性があり得る気がしますよ。
情報から切り離されたってことは他の迷宮管理者は既に自覚して活動してらっしゃるのでは?
ものすっごく『私』には不利な環境が出来上がっているのでは?
だって、五年前の段階で『奴隷落ち』の可能性があったんですよ?
五歳の幼女(心身喪失状態)が奴隷として刷り込み教育を受けてそれ以外になれますか? と言えば無理なんですよね。
しかも、この世界の奴隷は一度奴隷になるとその奴隷の種類に合わせて『魔印紋』を身につけますよ。
解放されても奴隷であった事実は決して消えないというシステムです。岩山の国のフッティーナちゃんとエラランちゃんの身体には確かに『魔印紋』が残っていた。
解放された『魔印紋持ち』はちょっぴり人頭税が高めに設定されていて、いつでも出戻りしやすいイヤなシステムなんですよね。
いけませんね。
意識が本題から逸れてます。
魔力の回復は悪くありません。
『流玄監獄』は貧弱なことにほぼ魔物のいない迷宮のようですが、階層は六十を数える広いものですし、十階層ごとの転移陣も準備されているようですね。ただ、利用者はほぼいないようですが。一人か二人って感じっぽいですね。
魔物のリポップ用魔力の枯渇ってやばいですよね?
放棄すると縛られていた基礎ルールが変化する可能性もあります。すると自壊を選ばれると『月砂翠宮』からの吸魔攻撃が帝国に向かい、予定外の動きでアドレンス王国に影響する可能性があるんですよ。つまり私の迷宮たちの管理環境の不透明さが増えます。
でも、アドレンスに組み込むのは違います。
「私の管理下でも『遠浅の国』のままですか?」
そうでないなら別の手段を考えなければいけないでしょう。
『国境はあくまで地表のニンゲンが定める区分けですね。現在住人は迷宮神子兼王ただ一人ですが』
えー。
「人員管理してんのどこー? 絶滅待ったなしじゃない」
『天上回廊』も妙な運営してたけど、住人はちゃんと居たよね?
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