第313話 迷宮の魔物

 リーダー気質の少年の名前はゲルドガルド・ヤルゼルくん。お兄さん一人と弟さん妹さんの四人兄弟だそうです。

 おっとりさんのお兄さんに弟妹を任せての出稼ぎだそうです。うまく生活基盤を築けたら兄弟を呼び寄せる算段だったそうです。今回の移住の契約金(準備金)の一部で兄弟の春までの仮宿はおさえたそうですし、仕送りはする予定だそうです。すごいですね。兄弟思いの十二歳少年。などと感動しているネア・マーカスですよ。

 ティカちゃんなんかは多少事情を知っているらしく、「なんとかなるんじゃない?」と気楽ですよ。

 春からは妹さんも十歳なのでギルドに登録できるそうです。弟さんもちょっとやんちゃではありますが、ギルドで雑用をこなし日々の食い扶持は稼いでいるタイプだそうです。

 兄弟四人は平均なのかと疑問を持ちますが、兄弟四人は少ない方だそうです。

 生活が安定したら弟か妹増えるかもとときめいているティカちゃんを見ましたからね。

 ゲルドガルドくん、ごはん後に屍女のカデラさんに声をかけに行ってました。本当にお父さんのことを知っているのかを確認しに。

 ええ。こっそり覗いてました。心配と好奇心ですね。

『ディンドルは姉の末息子だわ。ええ。あなたはその年頃のディンドルにそっくりね。まぁ、娘が産まれたら『カデラ』ですって? 嬉しいことね。そんなことより会いたかったけど』

「カデラに?」

『いいえ。ディンドルに。言ってもしかたないことだけど、生きてあなたたちを紹介してほしかったわ。私は死んでいるのにね』

『いいかしら。ルディ。私は今迷宮の魔物だわ。それでも料理屋のカデラとしての記憶も感情もある。私の迷宮はその領域で死んだ私達を再現するの。あのね。会えるかもしれないけれど、会いたいと望んではダメよ』

 遠目にもカデラさんに手を伸ばそうとした少年からカデラさんが距離をとったことがわかる。

『私達は少なからずうらみを抱えているの。その方が強く在れるから。うらみという陰が消えれば私達は消えるだけ。だから、失った誰かに会いたいと望みながら死ねばあなたは叶うまで迷宮に囚われてしまう。だから、ダメよ。あと、あまり夜遅くまで起きているものではありませんよ。あなた方もね』

 カデラさんが『子供は寝なさい』とこっちを見て笑ってましたよ。

 弟くんと私はちょっと気まずく笑い合っちゃいます。

「アンタたち何抜け出してるのよ!」

 ティカちゃんが仁王立ちですよ。ええ。冒険者ギルドの灯りを背に。ちょっとかっこいいですね。

 微妙な表情のドンさんからちょっとした注意を受けました。

 ちょっと眠そうな他の子達も一緒です。

「死んだ人は死んでいる。たとえ、そこにいてもその記憶を持っていても相手は魔物だということを理解する必要がある」

「あの、親兄弟でも?」

 聞いたのは補修が得意なタッズさんです。

「そうだ。迷宮の思惑ひとつで記憶も心も押しつぶされて人を襲う魔物としての本領を発揮する。それが屍女だし骨狗だ。そして情が出れば揺らぐのが人だ。だから、関わってはいけない」

「じぃさんを、見かけたんだ。……ガキの頃、落盤で帰ってこなかったままの姿でさぁ、おれを追い払うしぐさすんだよ」

 一緒に来た移住予定の人がボソボソとそんなことを言い出しましたよ。

 鉱山でお亡くなりなら骨狗として動いている可能性は高いでしょうね。……アドレンス王国全体から遺体再現できるらしいので国内死亡者は出現率高いんですよね。

 地元の方が動きやすいらしいのでそういう採用基準らしいですけどね。たまちゃんによると。

 おもいっきり情に揺さぶられている大人の醜態が子供達の前で晒されてますよ。

 呆れたような息を吐くドンさんですよ。

「迷宮が敵対した時、じぃさんが襲いかかってきて、心を決めて倒したとして、二度、三度と自分の手で倒していくことに耐えれるか? 死んでいるはずのじぃさんと言葉を交わすってのはそういうことだ。迷宮の魔物は、同じ外見でリポップする個体というものは迷宮の思うままなんだよ」

「何度でも手合わせしてもらえる師範とかは楽しかったぞ」

「それはおまえが特殊案件だよ。イゾルデ」

 ドンさんが疲れたようなため息で肩をがっくんと落としましたよ。

「まぁ、一年くらいは王族関わってこなけりゃ平和だろうさ。仔兎は今は共存姿勢だ」

「今は、な!」

 死霊系魔物にトラウマでもあるんですかね? ドンさんって。

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