第303話 弟王子の悪あがき

 たまちゃんの暴走を見守り、意識を現在に戻せばじっとこっちを見ている兄王子と視線が合いましたよ。見つめ返せばそっと逸らされました。わけのわからない戦いをしているネア・マーカスです。兄王子と私、どっちが貧乏くじでしょうか?

 たまちゃんの件は今は横に置いときましょう。行動することになってもその時は王子たちは蚊帳の外です。『魂極邂逅』はアドレンス王家立入禁止ですからね。迷宮意志で。

 それぞれのお話を聞いたり子供達と大人組の接し方を様子見したりしてうんうん頷いているのはほぼこの場における最年少者。うちの弟くんですよ。七歳児の振る舞いじゃないと思いますよ?

 薬草園(地上部)の畑作業要員。危険のない町中での雑務作業員。外壁作業員。(ここには荷物運搬員も含む)などの単純作業員枠と使えるギフトスキルをもつ専門職に斡旋できる枠にざっくり班わけですよ。専門職のうちに事務員要員さんもいるそうです。

 教会で生活保護を受けている人たちは基本的に自分のできることがわからなかったり、怪我や病気などで働きにくい状況だったり、性質的に問題を起こしやすかったりする人々なのです。家族を亡くしていたり、騙されたりして他人を信じ難かったりする人たちってわけですね。だから、子供達への対応や同じ教会で保護されているもの同士の接し方を助祭様や尼僧様、王子様たちや弟くんに観察されているわけですよ。弟王子にその判定ができるのかと言えば、意外なことに上手だそうですよ。(弟くん談なのですが、弟王子胡散臭そうに弟くんを見ていましたよ)

 施療院で回復中の人たちは尼僧様や助祭様方が回復後の希望確認をしているそうですよ。

 実際にはすぐに働ける人と無理な人がいるのは確かなので食事や文字の読み書きの練習、誰かと会話をする。今日はそんな日です。

 普段は仕事しているけれど、半分休憩の気分で自分の職能ギルドに使える人を求めている人もまじってたりもします。

 そういう人は子供達に自分がしている仕事について話したり(たまに実演込み)、自分のところで使えそうな人材の勧誘をしたりしていますよ。

 人材不足ですからね。でも育てるなら自分と相性のいい人がいいですよね。

 これから人材の取り合いは激化するでしょうし。夏の間に何人かは定着したという話ですが、まだまだ熟練者は多くないのが現実ですからね。

 どの職もある程度は迷宮に潜って基礎体力をあげたり、適性のあるスキルギフトを取得していくことが大事だったりするのです。

 そういう意味では『ティクサー薬草園』は基礎体力をあげることに役立ってもスキルギフトはドロップしないため、避暑と最低限の食糧資材収集迷宮で、メリットは薄いんですよね。食材資材が得れるだけでも価値は大きいのですが、迷宮慣れしている人たちからすれば取るに足らない迷宮というのが現状での評価といえます。

 まぁ『蒼鱗樹海』行ってくださいってとこですね!

 運搬要員として体力つけて、迷宮の浅い場所で狩りをしてスキルギフトを狙うか、小金を貯めて冒険者ギルドか商業ギルドでギフト購入を希望するかですよね。

 購入できても適性があるので覚えることができるかどうかは別ですけど。

 樽造りスキルというのは木材の屑材を素材に小樽を造るくらいで役に立たないと言っているおじさん(二十代半ばだそう)に弟くんはにこにこ魔力飴(プチスライム産)を渡して「もう一回」と繰り返させていましたよ。覗き込んだ弟王子が「これでは水が漏れるぞ! バラしてやるからもう少しマシに造るがいい」と小樽割ってました。素材として再利用。

「樽は水の保存に使えるからな!」

「もっと小さな樽ができるならジョッキも造れるのかしら」

 なんてティカちゃんも期待の眼差しですね。

「いや、大きいものを目指して酒樽用の大樽ができると生産ギルド系が喜ぶぞ? あと木材に限らないなら利用価値は大きいと思う」

 クォートさんも期待の眼差し。

 そう、使えるギフトを持っている大人組は落とされもするけれど期待の眼差しを持って見つめられることになります。つられたちびっこたちも期待の眼差しを……。似たギフトを持っていると競い合うように練習するハメになっていましたね。

 役に立てられるかどうかは別としてなんらかのギフトスキルを持っている大人は多いんですよね。ほんと活用できるか、適性があるかは別にして。

 あと、天職由来で自然発生するスキルもあったりするそうです。

 歌が好きで歌っているうちに『魅了』のスキルを身につけていた歌姫は見事に悪用し、詐欺師として私刑にかかったとかいうこわい話も聞きましたね。

 弟王子の行動でちょっと偉いなと思えたのは持っているスキルを聞き出して、『役にたたない』ではなく、まず、兄王子に「なにか使えそうなことあるでしょうか?」とお伺いを立てることです。兄王子はすぐには答えないのですが、ちゃんと引き出しがあるらしく、いくつか提案はしてくれます。思いつかなければ尼僧様や助祭様にもお尋ねになりますしね。

「役にたたないスキルはないのだから、スキルを持つならスキルと向き合い、力に溺れないことが大切ですよ」

 ということをむちゃくちゃ噛み吃りつつ言っていました。

 弟王子は本当にわかっているのにわかっている行動がとれない困ったさんであると教会にいた多くに知れて、地味に兄王子は「さすが尼僧長様のお孫さま」と評価を上げていました。弟王子の得意げな表情と評判に気がついて顔色を失くしている兄王子の対比はなかなかのものでしたよ。

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