第301話 パーティプレイ(冒険ではない)

「まさか兄さんと組まされるハメになるとは思わなかったわ」

 ティカちゃんがお兄さんに苦情を言ってお兄さんが苦笑いしていますよ。

「あ、あの、ご、ごめんねぇ」

 兄王子がオドオドと謝ってナーフ兄妹は顔を見合わせて気まずげに息を吐くという光景を見せられているネア・マーカス十歳弟くんとその従魔付きですよ。

「兄上は悪くないと思います!」

 うん。君が悪いもんね。基本的にさ。

「アンタよ。アンタがお兄さんの真っ当だと理解している意見に対して理不尽な行動をとるからいろいろ難事が発生しているの!」

 ティカちゃんに突きつけられて声をあげそうになりますが、こっくんと飲み込みます。えらい。えらい。いや、弟王子の方が私達より年上なんですが。なんとなく。

「ナニ? 無礼だとでも? まぁその通りだけど、領主夫人……ディディア様に許可を頂いているし、不満なら別行動なだけよ」

 ツンとそっぽを向くティカちゃんはちょっとキュートです。

「えっと、あの、ティルケ嬢、あ、ありがとう、ね」

「なによ! 私が意地悪したみたいじゃない」

「え、……え? 私、お礼、え?」

「ティカちゃんね、気にしないでいいよって。アクサド様が悪く思ってないのは知ってるからって」

 弟くんが兄王子にティカちゃん言語を翻訳してましたよ。

 なんとなく理解してもわかるように伝えるのは難しいかな。

「えっと、その、うん」

 兄王子、頼りないですよね。

「アクサド様はあんまり思いつめず様子を見ていてくださいね」

 ティカちゃんのお兄さんクォートさんは軽い感じで手を振っている。

 なにか言いかけた弟王子はティカちゃんに視線を向けられて不満げに黙った。ティカちゃん強い。

 この展開の理由は弟王子の『ティクサー薬草園』での失態にかかっている。『蒼鱗樹海』での失態に続いて二度目、しかも迷宮核に対する今までの配慮を壊しかねないものであった為、いろいろと罰則を与えられているらしい。

 罰則事項と言ってもしばらくの謹慎の後、町の発展に尽力するという内容らしい。弟王子は室内作業以外は私達の誰かと一緒でなければ行動してはいけないらしいです。その関係で私達は王子さまたちに好き勝手言ってもかまわないというディディア様と領主様の免状をもらってしまったのである。

 効果のある物言いができているのはティカちゃんだけだけど。

 弟王子はようやく兄王子にたった不名誉な評判が自分のせいらしい時がついたらしく、自分でもティカちゃんに「注意すべきと思ったら注意しろ。ゆるす」と言って「は? お願いしますでしょ。せめて」と言い返されてました。

 謹慎期間の間に兄王子と教会で尼僧長様を偲ぶ会をしたり、ティカちゃんと弟くん、この時点でその後一緒に行動を依頼されたクォートさんと一緒に『蒼鱗樹海』に入って調査採集焼却したりもしました。クォートさん魔力酔いしたのでゆっくりペースでした。

「高速魔力増強現象は操作不具合が出やすくて困るっ!」と吠えてらっしゃいました。

 そう、そんな準備期間もあったのでティカちゃんの発言はただのツンデレさんなんですよね。弟くんも小さく「いいツンデレ!」と言ってました。

 秋の期から王子さま方を交えて役所からの雑務依頼を処理するパーティ結成です。

 ある程度片付けないと王子さまたちには迷宮探索許可がおりない手筈ですよ。

 私とティカちゃんは好きなタイミング(ただし十日毎)で『蒼鱗樹海』に行けますけどね!

 今日は教会で奉仕活動ですよ。

 具体的には職のない大人を使って本人及び子供達を綺麗にしつつ、キキトリカンサツをして職業斡旋をはかるというみっしょんです。

 今なら超猫の手も欲しいので多少手際が悪くても仕事は見つかります。

 大人は教会でタダ飯食べてないで食費くらい稼げと私なんかは思っちゃいます。

 薬草園(地上)で芋畑の手入れでもいいんですよ!

 あそこは世話した人に収穫の権利があるんですから。

 口に出したら弟くんに「それ、最終手段」って言われたんですけどね。

「ま、識字率高くていいよね」

 識字率?

「文字の読み書きね。あんまり読めない人に会ってないから」

「当たり前だろう。教会が文字を教えるし、少なくとも自分の名前と所属する町の名前は書けなければ他の町には行けないからな」

 弟王子がバカにするような口調で言ってきますよ。

「まだ七歳じゃあそのあたりわかってなくてもしかたないがな」

「じゃあ、もののわかっている王子さまは署名の確認お願いしますね」

 ティカちゃんが弟王子を引っ張って職業斡旋希望の大人たちが申請書作成している一画に連れて行きましたよ。

 名前と得意なことをとりあえず書いてもらっているんですよね。

「モルタル塗りが得意? 土建ギルドに行けば仕事くらいあるんじゃないか? え? ギルドの親方やアニキがコワイ? あ、警備隊の訓練所、よく壁が壊れるんだよな。試しになおしてみるか? 給料はおれの小遣いからだからあんまり出せねぇけど」

 なんて聞こえてきますから意外なことに真面目に斡旋する気はあるようですよ。

 警備隊の人がその技能を見て褒めればギルドからも誘いやすいでしょうし、気質的な特性は多少配慮されるのでは?

 乱暴ですがいい人が多いですしね。

「今、新築ラッシュだから職人は欲しいけど、仕事が多過ぎて扱いが荒くなりがちなんだよね。冬までに家を増やしていきたいからって」

 弟くん、いつのまにそういう情報拾ってくるんですか。

 それはどこもですね。冬の期にお家に入れず野宿とかキツイですよね。

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