第299話 驚きの情報です
弟王子さまから聞き取りできた三階層情報は「真っ暗で滑りやすかった」だけだそうです。それに追加で返された弟王子さまの魔力枯渇状態、装備に付着したプチスライムではないスライムの残渣を確認されたとドンさんに教えてもらったネア・マーカスです。疑われているのはドレイン系スライムだそうです。
斜めな想定にちょっとびっくりです。
迷宮の危険度は上がったそうですよ。
調査の必要性が高まっているそうです。
視界良好だった一階層二階層。情報の精度は低いとは言え三階層は『暗い』それだけで危険だそうです。というか、普通に暗い迷宮は危険だそうです。あと『うるさい』と『静か』も危険信号だそうです。おおう。暗くて静かですよ三階層! 危険。
魔力吸引ついでに消音効果もつけてますからね。
たまちゃんに繋がっている扉の周囲の準備具合の確認が必要ですね。天水ちゃんも。
【天水峡連はワニの群れか毒ガエルの沼かで悩んでいるそうですよ】
それ踏み込んだら死にませんか?
【難易度が跳ね上がることはしかたないでしょう】
まぁそうなんですけどね。
「あ、あの」
ティカちゃんと明日は遊べるかなぁ?
「姉さん」
ん?
「どうしたのハーブくん」
そっちを見ると困ったようにたたずむ兄王子さまがいましたよ。なにかご用?
「あ、あの」
「私?」
あ、頷かれた。
しかたないな。
「ごきげんよう。殿下。ネア・マーカスです。なにかご用でしょうか?」
息をのんで固まられたんですが、どういう反応ですか!?
おはなしないんなら魔力枯渇でまた眠っちゃった弟君に付き添われてはいかがでしょうかと言いたいんですが、もちろん言いませんよ。ええ。
「お、弟が、荒れて、その、えっと、き、ネ、ネア嬢に無礼を、その」
王子様からの謝罪って、私受けて大丈夫なんですか? ドンさーん。吃りつつ頑張っている感じの兄王子越しにドンさんに視線を送ります。小さくバツをつくってくれましたよ。ありがとうございます。ドンさん。やっぱりダメですよね。
王族さまは気軽に不様を見せてはいけません。
「殿下」
ピタリと兄王子が言葉を止めました。顔色悪いんですが、ええ、大丈夫じゃないですよね? そんなに怯えられる理由がわからないんですが?
「迷宮では慎重さが重要であることを殿下が身をもって示してくださったと思います。ありがとうございます」
おはなしこれで終わりですよね!
あ。ドンさんが顔を手で覆いながら空を仰いでらっしゃいますね。なにがまずかったと言うんですか!
十歳児に偉い人達との適切な対応を期待しないでくださいよね。
「う、ぁ。え」
おしゃべり苦手なんですかね、兄王子さま。
「えっと、ちょっと呼吸を整えてみてはいかがでしょうか?」
まだ、何かおはなしがあるとおっしゃるのなら、はい、吸ってー、一拍とめてー、吐いてー。吐いてー。吐ききって〜。もう一回繰り返そー。
「吸ってー、吸ってー、いったんとめてー。……吐いてー」
あ、殿下、咽せた。
「殿下、大丈夫ですね?」
涙目で見上げられましたよ。
「アクサド。私はアクサド・ハーガス・アドレンス。その、おばあさまはどのような方でしたか?」
「おばあさま?」
だれ?
「あ、あ、えっと」
「あー!」
ドンさんがあげた声にびくりと兄王子が身を震わせましたよ。ビビってますよ?
「尼僧長さま! ネア坊、尼僧長さまだよ。バティーナ・ハーガス尼僧長さま!」
え!?
園長のお孫さん!?
さて、問題です。私は尼僧長さまのお名前は知らないはずなんですよね。ずっと尼僧長さまって呼んでましたから。尼僧長さまのお名前知ってる同年代って多分少ないと思いますしね。
まわりの人たちがちょっとざわつき、兄王子が卑屈そうな苦笑いを浮かべていましたよ。
「尼僧長さまは、私たちを救い守ってくださった素敵な方ですよ」
きっと、今だってちょっとはあなたの立場が悪くならないように弟王子さまの命をすくったんだと思いますよ。
だって、私ははじめての侵入者の命まるごとを迷宮が吸収するデータになればいいかなと思ってたんですからね。
「厳しくも優しい方です。ああ、だから、おとうとぎみさまは殿下を迷宮核にお連れしたかったのですね」
知っていたというのならちょっと兄想いだなぁ。兄には迷惑かけてるけど。
「え?」
「だって、『ティクサー薬草園』は尼僧長さまの想いが生きる迷宮と言われてますから」
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