第298話 王子様って厄案件ですか?
一歩、迷宮に踏み込めばぐずる幼児の声となだめる大人の声が聞こえてきます。放り出された魔核はじわじわと迷宮に取り込まれ、正規にプチスライムがリポップします。リポップしたプチスライムは泣いている幼児に寄り添ってぷにぷにと体をゆらしていますね。弟くんは素早い動きで泣いている幼児達をなだめたり魔核を返却ポストに入れに行こうと誘ったりしていますね。
とりあえず、尼僧さまになにがあったのか確認しておくことにしたネア・マーカスですよ。
王子様の暴挙は民の不信を呼んでいますが、まだお若いという免罪符も生きているようですよ。王族は素養高める為にかなり酷いことも許される立場ですからねぇ。
目的地はウズラのいる二階層。どうしても騒動に近付くし、訓練中だった冒険者見習いさん達からも悪評買っちゃっているのも見えます。警備隊の人が冒険者の人に軽く嫌味言われたりで空気は悪い気がします。
私たちが二階層にたどり着く頃には騒然とした空気に満ちていました。
「領主さまに連絡!」
「出入り口の封鎖は!?」
「子供は入れるな! 入っている子らも出せ!」
あれ?
私達も追い出される感じですか?
【予定外です。と言わんばかりですね。騒動が起これば制限はかかるかと】
わ、わかってますもん!
わかっている顔してちゃいけないですからね!
「姉さん、なんか騒ぎになってるみたいだね」
弟くんがそっとトロちゃんを抑えていますね。大事です。大事。
「今、慌てて動くのもダメでしょうねぇ。一階層に戻る方がいいかもしれないですね」
弟くんと頷き合います。ええ。面倒ごとは嫌いです。
「お! マーカス姉弟じゃないか。ちょうどいいからちょっと来いよ。特別だ」
え!?
ドンさんに拉致られましたよ?
「子供は入れるなじゃないんですか!」
「え?」
「え?」
ドンさんが不思議そうに「え?」って言いましたよ? どういうことですか?
「私たち、こどもですよ?」
ポンと手を打つドンさんはいい笑顔ですよ。
「おお! こどもだな。だから、特別だ。特別!」
その特別、嬉しくないんですが!?
結局、騒ぎの渦中に連れ込まれましたよ。
警備隊の人たちはざっと見知った方々ですね。気楽に「逃走する時は抱っこして走るからねー」と言いながら手を振ってくれます。私たちはここにいる前提ですね!
「いやぁ、逃げる必要がある時に小さいと踏み蹴りかねないからね。そういう行為は事前に避ける必要があるだろう? その時は是非抵抗しないでくれ。ハーブ少年もその仔犬に言い聞かせておいてくれ。誰かが掴む可能性もあるから」
笑顔ですが、眼差しは真剣ですね。
「はい」
お返事のタイミングは弟くんとかぶりましたね。
「いい子だ」
でも、特別扱いされたいわけじゃないんですけどね。
「なにがあったんですか?」
褒めてくれた警備隊の人を見上げて問う弟くんを眺めてからゆっくりドンさんに視線を移します。特別なら、特別に事情話してくださいな。
「あー、アドレンス国内に発生した迷宮の初期調査っつー課題で帰国してた王子さまが迷宮に無礼して試練与えられた。次の階層は正規にはまだ開かれてねぇからな。どうなるかわからんから待機中みたいな感じだな」
迷宮核(偽)を壊す案も出ているらしいが、迷宮に喧嘩売るのは嫌だし、少々やんちゃが過ぎた王子様を見捨てるにも気が引けるらしくざわめきが引かない感じのようである。
無事に抜けたのかな?
『主人様。踏み込んで三歩で段差で転倒、意識喪失なのですがどうしましょう?』
困惑している園長の言葉が脳裏に伝えられて、素で「えー」って声が洩れてしまいましたよ。ね。使えないなぁ。
そのまま返却を指示しておきましたよ。
兄王子が返却された弟王子に抱きついて脈やらなにやらを確認して安堵していましたよ。
『魔力は、それなりに多かったですね』
魔力吸引は有効だったようですね。
あとはそのまま解散になりました。弟王子さまに『試練失敗』のコメントがギルドカードに刻まれたくらいだそうです。
ここにいる警備隊や冒険者は知っているんですが、なぜか『失敗王子』の不名誉称号は兄王子が背負ってましたよ。監督不足ってヤツでしょうかね?
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