第297話 予定外なんですよね

『ティクサー薬草園』に踏み込んだ途端に管理空間に招かれたネアです。

『アドレンスの王子が問題行動を起こしているようです』

 じっとりとした怒りを湛えた園長に挨拶抜きに言われましたよ。

「問題行動?」

『入り口付近のプチスライム達を踏み潰し、魔核を放置し、幼児を泣かせながら奥に進んで行来ましたね』

 えー。ちびっ子泣かせたの?

『兄である王子がとめても聞く耳は持たず、二階層に至りました』

 えー。

 感じ悪ーい。

『軟弱な迷宮では強くなれないとご不満な様子でしたね』

 攻撃性のある魔物は廃されているのが一階層と二階層です。正直言ってその環境で食品が資材が入手できることに感謝のない存在が王家の代表と迷宮にみなされることに配慮が及んでいないことが残念です。

 警備隊の人や一応、冒険者のおじさま方が眉を顰めて注意はしていますね。

 迷宮との信頼関係をはかっているところに思いっきり妨害ですからね。私も小さな子たちが泣くのもプチスライムたちが踏み殺されてドロップ品も無下にされることも気にいらないですね。

「迷宮への敵対行動ですね」

『本人、迷宮核に触れて契約できると思っているようですね』

 え?

 契約できる実力と魔力あるの?

「三階層抜けちゃえるかな?」

 三階層全体に仕込んである魔力吸引、どこまで有効かな?

『距離は短い、ですね』

「お試しで招待しちゃおう。弟王子さまだけね」

『敵対行為と見做されるかもしれませんよ?』

「園長。先に迷宮への敵対行為を行ったのは弟王子ですよね? 少なくとも私が不快ですから。弟王子さまにだけ道をあけるんですよ。四階層にたどり着けば、少し強いゴーレム達と戦えて弟王子さまも満足でしょ?」

 薬草園の三階層は下りぎみの暗い通路が蛇行する長いとも言い難い廻廊。たまに落とし穴があったり、灯りを使えばそれを狙ってスライムが落ちてくるくらいのただの暗い道ではある。灯りがついていない間は通路から一定量の魔力吸引攻撃を受ける場所なので面倒な仕組みではあるんですが、灯りがあれば魔力吸引は機能停止しますしね。

「ちゃんと『ごめんなさい』か『助けて』が言えたら一階層に、入り口におくり返してあげればいいんじゃないかな。って思うの」

 お試しですからね。

 その情報から『薬草園』に対する対応の変化は気になりますが様子を認識管理できるのは幸運かもしれませんね。

 王族はまだどの迷宮とも契約を結んでない訳で、優遇措置の必要性はないんですよね。

「特別扱いされたいなら実力を示せばいいのですよ」

『そう、ですね。迷宮を荒らす者に罰は必要ですね』

 そうですよね。とりあえず園長の怒りモードがとけて落ち着いて見えるのがなによりです。

 いや、わかるんですよ? 

 だって明らかにマナーがよろしくありませんからね。教育者である園長がご機嫌悪くなるのだって。

『おそらく、ティクサーの町から出ることを禁じられた八つ当たりでしょうが、褒められたことではありませんからね』

「それに」

『それに?』

 実際に用意した暗闇廻廊、スライム攻めが効果あるのか気になってはいたんだよね。

「春になる前に効果を知れて改修できるなら幸いかなって」

 魔力吸引効果の強度調整も出来るだろうしね。

 王子様が二階層奥の迷宮核(偽)の前で『薬草園』の難易度の低さを罵ります。冒険者のおじさま方が渋い表情をして黙りこくっています。オロオロと兄王子が冒険者のおじさま方の反応を気にしていますが、何かを言い出すほどではありませんね。

 弟王子さまが迷宮核(偽)に触れます。

 カコンと音を立てて迷宮核(偽)が崩れ落ちました。

 その勢いのまま、弟王子さま吸引です。そして、他の方は侵入禁止ですよ。

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