第296話 怒っちゃうぞ

 からかい過ぎだとカイエさんに叱られたネア・マーカスです。

 弟くんとその従魔たちと一緒に移動ですよ。鉄荊を少し分けてもらいましたから鍛治ギルドに寄ってから『薬草園』に遊びに行きますよ。

 木苺ジャムを作ってもらうためですとも。

 そう鉄荊の糸を見て弟くんが「コレ調理用の鉄網に加工できないかな?」と言い出して、それなら日用雑貨も造っている鍛治ギルドに聞いてみたら。とカイエさん達がわけてくれたんですよ。

 岩山の国に繋がる裏道(国民以外は通っては行けない道)を塞いでいるので除草要員は多い方がいいとのことです。……オルガナさん、岩山の国の人……? あれ?

 いや、待って。ルチルさん、国境破りっぽいことしてなかったっけ?

 あれ?

 記憶違いかな。

 記憶違い。ヨシ!

「こんにちはー。鉄荊で鉄網つくれますかー?」

「鉄荊!?」

 親方がいきなり距離近いですよ。でかいのに素早い系のおじさんですね。ちょっとびっくりでした。

「近所か! 鉄荊ってことは暴れ蔓草が居るってこと! さっさと駆除だ!」

 え。

 そうなんですか?

 暴れ蔓草はかつて『大森林』(ケモノの国側主体)で地表を跋扈した危険魔物のはずです。マコモお母さんが「寝付きが悪くて夜のお散歩なんてしたらアバレツルクサに捕まって吊るされますからね。ベッドから出ちゃいけませんよ」って寝物語してくれたアレですよね。

 夜中に目が醒めて風の音すらこわくておしっこに行くのにマコモお母さん呼ぶことになるアレですよね。アレ。

「ケモノの国じゃ、んな感じに語り継がれてんのか。暴れ蔓草」

「あれ? 違うんです?」

 悪い子、っていうか人攫い系植物性魔物では?

「暴れ蔓草っつーのはなぁ」

 ふんふん。

 適度に相づちをうちながら聞くところによると『暴れ蔓草』は森林地帯の魔力だまりとやらに発生する植物性の魔物。流れで発生する、つまり本来なら居るのがおかしい外来種だとのことです。現実問題いるんなら組み込んで考えるか、駆除の二択ですよね。

 縄張りを張って、自分の魔力を分け与えることで従属魔物と変化した蔓型植物達で罠を張るそうです。そしてその場で溜まった魔力で株分けして、親個体は取り巻きと共にふらふら森を徘徊するそうです。人の張った罠や道を叩き壊しながら。

 暴れ蔓草の生息域の魔物は攻撃性が高くなるので慣れない旅人(つまり若くて弱く正規街道ではない道を行こうとする蛮勇持ち)とかはよく肥料になっているらしいです。

 おじさんが「今は人手不足なんだよ!」と吠えてました。人手不足でなければ見捨ててる発言ですね。

 増え過ぎないうちに駆除しておかなければ人里にも影響が出るし、駆除した葛が魔物化して復活するとのことでした。なにげに迷惑ですね。頑張って駆除しているのに。

 鉄荊の蔓は真っ黒で鋭い棘が生えた蔓。棘は指で摘める大きさで少し力を込めればポロッと外れます。服や履き物に混じれば、鬱陶しそうですね。そして微毒性です。巾着袋に火薬や火の魔核と一緒に詰めて投げつける爆弾利用するとのことです。スリングを使って飛距離を伸ばすことが推奨だそうです。刺さると皮膚に食い込んで治癒の前にまず抉り出す必要があるので被弾注意……意外に凶悪な武器に転化するっぽいですね。

 安全の為駆除とは言っていますが、隠すことなく、「鉄荊! 鉄!」とも言っているので近日中に鉄荊駆除隊が組まれるんでしょうね。

「頑張ってくださいね」

 と言ったら露骨にほっとした表情ですよ?

「ああ。嬢ちゃんが行くって言い出したらどうしようかと!」

 行きませんよ?

 道を拓くんならともかく、コレは大人の仕事ですよね?

「私、十歳の子供ですから。だって、コレ危険任務ですよね?」

「あ? いや。ああ。まぁ確かにそうなんだが」

 歯切れが悪いですね。

「警備隊から、依頼があればですよ?」

 安全を出来るだけ高めてくれる警備隊の人との行動だったから道拓きも迷宮内焼却(伐採)も行っているんです。慣れた助言者がいるから行くのであって、自分から未知の脅威(暴れ蔓草)に突っ込んでいくのはどうかと思います。

「本音は?」

 弟くんが静かに言葉を挟んできますよ。本音?

「マコモお母さんが、『もし暴れ蔓草にネアが攫われたらお母さん助けてあげれないかも』って言わしめるくらいの魔物ですよ?」

 少し驚いたように目を見開いた弟くんがもうひとつ、とばかりに口を開きます。

「それどんな時に言われたの?」

 どんな時に?

「寝付きの悪い夜ですよ。どうしてです?」

 弟くんが「あー」って納得した表情で頷いてますよ。なんなんですか?

 あ。鍛治ギルドのおじさんもですか!

 もう!

 なんなんですかっ。

「薬草園行きますよ!」

「気をつけてな」

 鍛治ギルドのおじさんに送り出されたので「ありがとうございます。行ってきます」と返しておきました。

 弟くんも振り返って手をぶんぶん振ってましたよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る