第289話 迷宮と人
『アレはよろしくありませんね。いくらまだ幼いとはいえ腹立たしい』
迷宮管理空間では園長がピリピリしていてそれをエリアボス蛇が『すてい。すてい。アルジ許可ダイジ』と諌めているのを目にした迷宮管理者ネアです。
えー。園長がですかぁ?
白い亀天水ちゃんがそっとたまちゃん誘ってお茶の準備をはじめてくれていますね。
『あの小僧』
『王家の役立たずさんです』
園長の言葉に煽るように付け足されるたまちゃんの発言。冷静になって。園長。
「えっと、手出ししちゃダメですよ? わかってますよね」
『アドレンス王家への不信は伝えましたよ?』
なにか問題が? と言わんばかりの魂極邂逅ちゃんですよ。そういえばそういう方針でしたね。
『王の兄弟姉妹に孫世代までに攻撃性を三割強めてあります。パーティで王家の血筋がいればターゲットはその個人です』
気持ち声音が得意げですね。
そのくらいならいいかなとも思います。
「個人攻撃はダメですよ」
だって、あの子は子供だし。
「エリアボス蛇。あの弟王子ってどのくらい面倒そう?」
不思議そうな眼差しをむけられました。
『弟王子ヨワイ。注意力不足。魔力操作下手。一階層デハオチナイ。スコシ能力ノビテ三階層』
ふぅん。
「イゾルデさんなら?」
ゆらゆら揺れていたエリアボス蛇がぴたっと動きをとめます。
『六階層デ止メタイ』
あー、これドンさんとかルチルさんとかとパーティ組んでるとやばい奴だ。
広いから時間をとって鬱陶しいけど、だいたい必要物資は荷物袋に入れているし、食糧は現地調達可能だからな。
『装備品の切り替えが必要になりますから撤退回数も増え、滞在期間はのびますから魔力接収効率と再分配強化の割合は悪くはありません。ですが、不安要素がないとも言えませんね』
バティ園長が補足してくれます。落ち着いたようですね?
『分配。人を入れない迷宮への分配魔力が存在する以上、『蒼鱗樹海』の成長は抑制されます』
たまちゃんが主張します。
うん。つまり私の魔力供給では成長速度的に物足りないということですね。
『多様な探索者が必要なのです。魔力は基礎値の向上になりますが、多様な敵対者に対応していくことで応用の手数を増やしていきます。剣戟を主体とする戦士とスキルギフトを主体とする戦士では戦い方も違えば適した対応も違うのです。一階層、二階層では力によるごり押しができてもその先は応用があった方が良いですし、探索者もそこを考慮して実力を抑えつつ探索を進める者が多いでしょう』
今の『蒼鱗樹海』は力ごり押しでいける迷宮ですからね。
どっちの意味でも。
人を呼び込むためには入り口付近の難易度は下げるべきですし、進む上で試練になりうる階層は必要。
六階層は冬の森をイメージしての配備地です。そこに至るまでの装備だと、……冬の期(地表と連動のため)以外では凍死必須になっているそうです。
水源湿地帯は比較的蒸し暑かったりするみたいですしね。
温度変化によるストレス耐性ってみなさんどうなっているんでしょうね?
投入魔力は四迷宮公平に流していますが、補うように『蒼鱗樹海』から他迷宮に流される配分分もあると考えれば、『蒼鱗樹海』の強化魔力リソースが不足するとも言えますよね。
死傷者はあんまり出ていないようですし。(迷宮内で探索者が死ぬのが一番効率の良い魔力取得だそうです)
「未熟な王族なら成長も期待できるでしょう? できるだけ通ってもらって魔力を供給してもらう方向性がいいと思うのです」
戦闘手段も試行錯誤してくれるなら、エリアボス蛇の学習資料としても使えますし。
あと一気に戦力投入されても困るし。
エリアボス蛇も頷いている。
確かに『蒼鱗樹海』では少ないだけで配慮に欠けた死傷者はいるとのことです。あと、死体が迷宮に取り込まれることを利用した殺人。
良い供給ではあるのですが、ちょっとなんだかなぁとは思います。
「さて、この夏の間に迷宮核の間にたどり着く者はいると思いますか?」
『否。水道、川、共に接近者極少』
天水ちゃんが即答です。町中の上下水道は天水ちゃんの迷宮影響下とのことですからね。魔力もすこしは回収できるそうです。
『入り口もまだです。『石膏瓦解』と『ティクサー薬草園』との境には強め門番を配置してます』
『ウズラの魔核三百にはまだまだ遠いですね』
ウズラの魔核については気が付かれたら早い気もしないでもないんだけどね。
たまちゃんと園長が続けて答えます。
『アドレンス王国国土ト同ジ面積ノ迷宮入口現在三ヶ所。二階層目ヘノ入口ヒトツ。探索者多クナイ』
ああ。くっそ広いというのは物理的にキツイよね。葛で足場悪いし。
『夏より、秋に帰国者や移住者が増えるでしょう。夏の間に今戻ってきた人々の居住区を国は安定させなくてはいけないのですよ』
えぇえ。
冬越せない人が出かねない情報じゃないですか。それ。
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