第288話 王族めんどくさい

「兄上?」

 きょっとーんとわかっていないっぽい弟王子に兄上様がおずおずと「ちゃんと護衛の、言うことを、聞く。その条件で迷宮探索の許可をいただいただろう?」と弟王子様に語りかけてます。挙動不審者ですし、すっごいしどろもどろで、弟王子様から必死に視線を逸らすためにあらぬ方向を向いてますけど。弟王子様に注意してあげられる兄上様なのは好感度高いなと思うネア・マーカスでした。

「いやです。こんな小さな子連れで迷宮に入ってくるような猛者なら少し後退した場所から見学ぐらいかまわないはず!」

 ん?

 弟くんは確かに七歳ですから小柄ですね。なんか私を見ませんでしたか?

 小さな子ってセリフと共に。

「そうだろう?」

 そう言ってティカちゃんを見ますよ。この弟王子。

「は? 迷惑なんですけど?」

 兄上様がうんうんと頷いて、「ね」っと弟王子を連れて行こうとしますが、弟王子抵抗するようですよ。兄上様押しが弱い。

「生意気だなぁ」

 弟王子、自己紹介ですか?

 ティカちゃん、キッと弟王子睨んでますけど、手は握りしめてプルプルしてるし、騎獣が少しソワソワしてますね。

 ふむ。

 警備隊のお兄さん(明らかに対応困ってる)を見れば意見は出来なさそうでより困った表情をされました。

 下手なことできない立場ですよね。いわゆる責任者早く来いって奴ですね。あ、私も当事者ですよね。

「私達にとってこの件は領主様案件です。予定外の参加者は警備隊の方か見知った冒険者以外は受け入れなくて良いという許可を領主様と補佐様に出してもらってるわ」

 そんな許可出てたんだ。

「ちょっと! だからちゃんと話は聞いてなさいって言ってるでしょ! なんで初耳ですって顔してるの!」

 ティカちゃんに叱られちゃいましたよ。

「にやにやしない! 注意しているんだからね!」

 やっぱり少し不安だったらしく、声が上擦ってますね。

「ほら、ノーティ。叔父上様の判断でもあるんだから、ダメだよ」

 んー、渋る理由は『焼却』を見たいってことでしょうか?

 じゃあ、ちょっと見せれば引いてくれる? より食いついてくる可能性もありますけど。

 かつて九歳児に言ったようにこの世界、なんだかんだ言って力を優先するんですよ。迷宮は大きな力の坩堝ですし、そこに繋がる意思を持てるから王族は優遇されて、その要素である強さを伸ばすためにありとあらゆる無茶を行使して許される立場です。いわゆる初期能力値の高さを誇るわけです。でもね、私と弟くんよりは下ですね。子供ですから、親が、親族の大人が出てくれば、まずいのかもしれませんが迷宮の力も流用すれば黙らせることも可能だと思うんですよね。

 問題は私、できれば穏便に過ごしている方が好きなんですよ。

「ノーティ。帰るよ」

「でも、兄上」

「わかった。私は、うん、疲れたから帰るね。あの、騒がせて……」

「ああ、少々お待ちください。護衛なくお帰しする訳にはいきませんから」

 おどおどした兄上様が結論を出し、弟王子を切り捨てましたよ。ぽかんとした弟王子の横で謝罪っぽいものをしかけた兄上様の言葉を警備隊のお兄さんはせき止め、待機を要請する。

 アレだ。偉い人に謝罪されちゃうと後々ややこしい事になるのでその対策だと思う。

「兄上!?」

「え、だって、ノーティはきいてくれないんでしょう? あんまり、迷惑かけるのは、ほら、苦手で」

 おどおどした兄上様の視線が一度、私の上でとまりましたね。

「だって、こんなチビ連れで!」

「ノーティ!」

 あれ?

 この兄上様、弟王子と違って魔力量感知してらっしゃる?


【素養は上の子の方が高そうですね】


 立場は下そうですが。

「殿下。外見で侮るのは愚策ですね」

 音もなく現れたのはイゾルデさんです。弟くん? あ、気にしてなさそうです。私なら根に持ってるとこなんですが。

「イ、イゾルデ」

 一歩後退しましたよ。弟王子。苦手なんですね。イゾルデさんが。

「ネア、此処が対象ではないでしょうが、あちら、人がいないので」

 えー。

 実演しろって要望されましたよー。

「僕がする」

 弟くんに出番をとられた?

「殿下方はお下がりを」

 イゾルデさんに顎で指示された警備隊のお兄さん達もすすっと動いて防御体勢ですよ。

「カシリ。焼け」

 あ。アレだ。下手すると「おまえの力じゃない」とかごねられる奴だ。

 魔物使いは魔物の力を使うのは魔物使いの力なんだけどね。

 またぽかんとしている弟王子にイゾルデさんが「相手の実力をある程度把握できなければ迷宮と契約可能な場所まで到達すらできませんよ」と言い聞かせていました。イゾルデさんが!

「見逃してくれてありがとう」

 帰るという兄上様がそっとその言葉を残し、イゾルデさんに説教されながら出口に向かう弟王子の後を追っていきましたよ。

 え?

 もしかして、私が怖がられてましたか?

 あとで弟くんになんであそこで出たのか聞いたらトカゲ氏が弟王子の態度に怒り狂っていて発散だったそうです。

 あれ? 

 もしかしてもしかして、あとでエリアボス蛇達のメンタルケアしなきゃいけない奴ですか?

 あのつっかかり王子めんどくさい!

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