第280話 悪ガキトリオ


「聞いている情報を拾うとさ。上質糸素材は迷宮の奥にいける実力が必要らしい」

「なにあたり前のこと言い出してるの。頭打ったのクーゲル?」

「今の俺たちには行けないじゃないか!」

「弱いからね」

「それじゃギフトスキルもろくに育たねぇんだよ」

「ソウダネー。で、どうしたいの? 開墾手伝ってもらってるし、少しくらい聞いてもいいよ」

 育成実験用の小さい畑から抜いた雑草をこぼさないようにガルが立ち上がる。ガルは三人の中では一番細っこくて身長が高い。クーゲルはこないだまでは一番高かったが(横幅も)今はガルに抜かれてしまい、悔しげに野菜も多めに食べている。

「この辺、植物層がちょっと変わってるだろ? 迷宮の影響が強いってことはこの辺にも迷宮への入り口があるんじゃないか?」

「は?」

「だーかーらー、迷宮の入り口だよ。入り口。探しにいかねぇ?」

「聞こえてないわけじゃない。アランはそれでいいと思ってるの?」

 え?

 話振られた。

「一番の戦力はアランなんだからアランに不安があるならダメだと思うな」

 不安?

「行くなって場所に進まないならいいんじゃないか?」

 そう返したらガルがぶすくれた。

「危険感知を育てようってクーゲルに言われてそれもそうだなって言った後、蜂に追われたこと忘れてる?」

 苛立たしげなガルを撫でてみる。いや、もうガルの方が背が高いんだけどさ。

「生きてるだろ?」

「危険の基準が甘いのかよ!!」

 怒鳴るガルにクーゲルがゲラゲラ笑ってる。

「ま、行こうぜ。明日はまた畑ひろげんだろ。手伝ってやるさ」

 職人の町になるだろう元廃村には臨時の村長と仮教会に司祭様。二、三日交代で訪れる警備隊員。場所を定めた職人が数人。(クーゲル憧れのサティアさんもその一人)ガルは村の農耕区画を三年間税制優遇を受けて開拓していくらしい。学都にも行かず土地を弄って作物を売る。農業に携わる人間は少ない。作物は迷宮で採取してきた方が美味しくて魔力も高いし、定期的に湧くので採りに行く人間さえ確保していれば安定供給される。つまり、農耕作業者はいわゆる閑職だ。苦労は多いし、それでいて報われにくい。もちろん、この十年ガルのうちのような農家があったからこそ生き延びてきたことも事実だ。

 俺は爺さんに村の周囲で狩りをして害獣を見極める課題をもらっているし、クーゲルは俺が狩った獲物を分解技能を使ってバラしたり、村唯一の雑貨屋で販売業務に従事している。職人が欲しい道具を町の商人に連絡して手配するのもクーゲルの仕事だ。まぁ、だいたいのところ暇な日が多い。なにしろ頼みを取りまとめて巡回の警備隊員に頼むだけだから。

「巡回のついででもあるから、あんまり騒ぐなよ?」

「えー、アラン。ひとりで行くのさびしいだろ?」

 いや、さすがに押し付けがましいぞ。クーゲル。

「おれはさびしい! だから一緒に行くぞー。単独行動はあぶないしな」

「クーゲルがなのか」

 お前がかよ。

 呆れきったようなガルの言葉に無言で頷いておく。

 まぁ、分かってはいた。

 なんだかんだ言ってもいっしょに飛び出してヘマを踏んで、一緒に叱られる。

 今日もきっと同じ一日が続くんだろう。

 つるバラが蔓延る道の先に廃村を見つけた。

 羊草が群れて、痺れ蛾が木陰をふわふわ舞っている夕暮れ。そこは屍女(カバネメ)の住居だった。

 屍女は魔物だ。

 死霊系の魔物で意思を持つことも多く、自らを傷つけた相手を血の匂いで覚えるために恨まれると親族全てに危険がおよぶ危険な魔物だ。ただ危険感知は反応していない。

「ばぁちゃん……?」

 クーゲルがボケっと屍女に声をかける。

 振り返った屍女は確かにクーゲルの姉にどことなく似ていた。クーゲルの祖母ならばクーゲルの姉が似てるんだろうけど。

 この国にもうひとつ迷宮が存在すると知れた日だった。

 報告すべきと俺とガルが言うのに「しばらく、しばらく時間をくれ」とクーゲルに説得された俺たちは夏の期が終わる前には報告しようと沈黙することになった。

 まぁその前にバレたけど。

 嬉々としてサティアさんがクーゲルのばあちゃん(魔物)に機織り技術を習いに通いはじめたから。

「クーゲル、魔物の孫?」

「死んでから未練が迷宮に依って魔物になるってケースがマジであるなんて! すげぇ!」

 祖母に会えてしばらくクーゲルはテンション高かった。絶対バレたのそのせいだと思う。

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