第276話 ぐだりぐだりです

 べたりと床に寝そべりエリアボス蛇ぐるみをぎゅうぎゅうしてみてるネアです。

 コレはアレです。アレ。自分の状況が自分で整理しきれなくなってどこか混乱している状態です。

 春先から、冒険者登録して町を出ることになって戻ってきて弟ができて、ともだちができて、マコモお母さんもグレックお父さんも元気になって。町を歩けば一日で数えきれない人たちとすれ違うようになって。

 ひとつひとつゆっくり慣れてきていると思っていたのが、実は気のせいで苦手だと感じている自分から目を背けていただけだと。

 まわりから差し伸べられている手を気がついていないわけではないんです。ゆっくりでいいと配慮されて、それが時々すごく息苦しくなる。

 甘いやさしさはじわりと絡む毒のようで。

 そう感じる自分が見下げ果てた存在だと感じる。

 こういう時、否定することなく沈黙を貫く天職の声さんには感謝しています。

 こんな時に肯定されても否定されても私は煩わしく思い、根に持つでしょう。私はささくれだっている時に人の優しさを甘受できるほどには強くはないのです。

 恨み、嫉み、憎むのはどうしてこう簡単なのかわかりませんが。ただ持続させるのはしんどいです。

 疲れてしまうから諦めてしまう楽さを知ってしまうとそちらに流れやすいのですよね。

 考えたくないものを考えないでいる楽さです。

 私は『無用なもの』でいることを望まれ受け入れたこともあります。

 私は『必要ではないがそこにあってもいいもの』として扱われて生きていいんだ。体だけでなく心も生きればいいとそこで知りました。

 生きることは他の生きるものを喰らう命の連鎖。強いには種類があること。なにかをするにもなにかをしないにも相応の対価はあり、それは均衡が正しいとは限らないこと。

 それは本当に別世界の出来事。

 私にとってここも今私のいる場所だけど異世界で、私は『こわがりな私』にちゃんと生きて欲しい。

 うん。

 ティカちゃんは私のともだち。

『私』のともだちになれるかはわからない。

 ティカちゃんはかわいくていい子で、きっとともだちがたくさんできるだろう。それを素敵なことだと思う私と『無用なもの』として扱われていて『また騙されたのかな』と疑う私がいる。

 ともだちができるのがうれしいのに利用される関係の方が安心できると感じてる私がいる。

 つまり、『私』にこわがらないで生きて欲しいと望んでいる私が一番こわがっているのだ。

 人を、誰かを、信じかけて、甘さにひたりかけて誰かに責任を押し付けようとしているのだ。

「笑顔のティカちゃん? かわいいわ。大好きよ」

 声に出してみる。ただの事実だ。

「今、私はすこし力に振り回されているわ」

 うん。事実。

「マオちゃん好き? うん。好きよ。最近弟くんに取られちゃったみたいだけど、それはそれとしてかわいいわ」

 なんでもいいのかって言われたらマオちゃんだからいいってなるわ。外から甘え顔のマオちゃんを見るのもしあわせなのよ。

 好きだと感じたものを守りたいと思うから。

 ねぇ、天職の声さん。

「ケモノの国の迷宮が自壊するまで猶予ってどのくらいあるの?」

 今の私の支配権と同等は有りそうな暴食の地。

 まだ、私の魔力は足りてない。


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