第266話 対話

「さて、今日も森の道拓き『伐採』業務は完了ですよ」

「姉さん、それで自宅に入ったと思うんだけど、ここはドコ?」

 弟くんの疑問にどう答えようかと思う迷宮管理者ネアです。うまく管理空間に招待できてよかったですよ。

「第三者に聞かれる事なく会話したいと思ったのですよ」

 えへん。

「ああ、だからカシリとトロも気配遠いんだ」

 あれ? そうなんです?

「たぶん戻ったらさほど時間経過はないですから大丈夫ですよ?」

 たぶん、ですが。

 ざわりとした感触がありましたから呼べば、相手が感知する感じですかね?

 では、迷宮関係からの接触は遮断ですよ。今回は。

「『豊穣牧場』の迷宮核空間と同じような感じ?」

 たぶん、それであってると思いますよ。

 ところでですね。

「温泉の設備は木製の方があうと思うんですよね」

「そこ!? いや、待って。土がもろもろお湯に混じるのよりはいったん焼いてタイル地であとから岩っぽい装飾とかすのこ考えればいいと思うよ? うん。木製も悪くないと思うけど、腐食とか管理考えたらさ」

 あとの加工ですか。うん、確かに土がもろもろと崩れるのはイヤですねぇ。

「檜材の樽型湯船とかは僕も浪漫だと思うよ?」

 えー。

「木材を直角に組み込んでいく浴槽が好みですよ?」

「それも悪くないけどさ」

 なんだろう微妙に趣味の差異が噛み合わない。好みだからなぁ。

「で、こういう話をするために呼んだの?」

 ある程度はそうですね。

「頷いた。頷いたよ。この子!」

 うるさい弟くんですね。

「七割くらいそうだってだけですよ」

「七割! それなりにおおめ!」

「だって、私そんなに難しいことは得意じゃありませんから。味方だと言われてもハーブくんをどこまでも信じてあげられるほど強くはないんです」

 私は契約候補の一人ですよね?

 つまり、他にも候補はいる可能性が高いし、契約の強制力は? 対価は? 行動指針は? 実際契約を結ぶことで得る効果は? そしてどこまで結ばずにいられる?

「拳で語り合う方がまだ理解し合えるかも知れません。私貧弱ですけど」

「いや待って。貧弱脳筋」

「貧弱脳筋っ」

 響きがッ酷いっ!

「女の子だから殴れないなんてことを言う気はないけど、子供は殴れないよ?」

 弟くんも子供ですけどね。

 少なくとも管理空間に招いておはなしあいを試みてもいいかとは思ってみたのです。そばにいればいつかバレそうですしね。

 たぶん、抜けたところはありそうですが、私より弟くんのほうが思考形態が進んでそうなんですよね。

 私は感覚と本能が主体ですから。ええ。自覚ぐらいしてますとも。

「私も美味しいものをつくる手を傷つけるつもりはありませんよ?」

 弟くんため息つきましたね。

「姉さんの知っている暦、聞いていい?」

 こよみ、ですか?

 そうですねぇ。

「煌繝暦だったと思いますよ?」

「は?」

 うっわぁ、弟くん表情がすっごくっぽっかーん。

 最後の記憶が何年だったのかは覚えていないのですが、コウゲン帝が神帝位にお座りになられた年に私の婚約が決まって、妹(従姉妹)との関係が微妙に拗れていったように思います。

「あ、うん。そっか。そういうこともあるんだ。ん」

 ひとり無理矢理納得しているっぽいですが私には普通なら伝わりませんよ?

「ハーブくんは、セーレキの暦でショーワですか?」

 私が知っている暦(ただし伝聞)はこっちもあるんですよね。

「え? ぁー。うん。僕が生まれたのはショーワが終わってへーセイだけどね。なんで知っているの?」

「私、煌繝帝の治める御世からイセカイテンイして死にかけ活動した記憶があるのですよ!」

 えっへん。

 ああ。弟くんが、ぽっかーんしてる。

「ここ、コーゲン帝なんていないよね?」

「いませんよ? イセカイテンイ後死んだ記憶は特にないのですが、気がつけばこちらに居て『彼女』の内側にいたのです。私は『彼女』を守りたいです。あなたの契約はどこに繋がっていますか?」

「……憑依型!?」

 なんなんですか。そのひょういがたって?

「まぁ。なんというかわかることとわからないことが多すぎてハーブくんへの扱いは困惑が正しいのですね」

「あー。うん。信じきれないって伝えるくらいに信じてくれてありがとう」

「なんと言いますか、外の存在はこの世界、他にもいるんですよ。『豊穣牧場』の迷宮核だと思う存在も普通にハーブくんを匿ったでしょう? 迷宮にとっては有益なんだと思います。人がどう反応してくるのかは私もわかりません。ただ」

 異物は通常拒否されるものなんですよね。

「秘匿した方がいいってことだね?」

「そうですね。この世界にはおもてだって『転移者』の受け入れ施設はありません。伏せられているのならそれなりの慎重さが必要なんだと思います」

「慎重さ……」

「慎重さです」

 その物言いたげな表情は何ですか。聞いてなんかあげませんから!

 マオちゃんとティカちゃんを庇いぎみでいてくれるなら私としてはもう少し信じてもいいんですよ?

「なら、姉さんはもう少し慎重にならないと。僕との距離を詰めるには遅いし、早いよ」

 意味がわかりませんよ。弟くん!

 諦めた表情で苦笑いされるとイラつきますよね。

「ティカちゃんやマオちゃんに惚れちゃダメですよ?」

「は? 妹だし、ティカちゃんはいい子だけどタイプじゃないし」

「は? 生意気ですよ!?」

「どちらかといえば、割り切ったお付き合いできるひとを希望してます」

「クズですか!?」



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る