第267話 はじめる前にはじめること

 今朝は南門から温泉が湧いた休憩地点まで荷馬車に乗せてもらっての移動をしているネア・マーカスですよ。

 弟くんはティカちゃんはタイプではないと超生意気なことを言ったわけですが、ぼそっと『ウチの妹を思い出して妹にしか見えない』のもあるそうです。いい妹さんですね。ティカちゃん見てて思い出すような妹さんはきっと良い子でしょう。柔らかな笑顔から妹さん好きなんだなというのは察することができましたよ。

 移動中にティカちゃんち提供の朝ごはんを食べますよ。今日は小麦の生地の中にちょっと塩味強めの豆の風味が混ざった肉団子が入った揚げパンでした。

 満腹ご機嫌でついた温泉休憩地点はなんか荒らされていましたよ。

 夜中の誰もいない時間に大型の魔物が通り過ぎていったらしく、せっかく掘った温泉が破損していました。

 焼けたタイル部分がバッキバキに割れているし、泥や折れた木の枝が流れの中でぐるぐる回っていますね。

 私の温泉……。

 ぅうん、エリアボス蛇が拗ねたかな?

 焼いたことに私が文句つけてたのもあるし。


【縄張り荒らしに魔物が報復することはありがちですね】


 あー、そうですね。ここ道が元からあったわけでもありませんしね。すべて順調にいくには魔除け塚すら足りてませんでした。司祭様頑張って?

 弟くんが荷物袋からごそごそと液体の入った瓶を取り出して中身を温泉に流しこんでますよ?

「ハーブ。なにしてるの?」

 ティカちゃんが寄っていって尋ねます。周囲から魔物が飛び出してこないか警戒しながら。

「うん。ちょっともう一回使えるようにしようと思って」

「大人がきたら枝とか処理してくれるわ。あぶないからはなれている方がいいわよ」

 うんうん。そうですね。ここは大人に任せておくのが正解でしょう。

「カシリ、灼き尽くして」

 温泉にむけてトカゲ氏を差し出す弟くんがいます。

 あ、これアブないやつだ。私はそっとティカちゃんの腕をとって下がらせましたよ。

 ええ。火柱があがりました。ちょっと白っぽい炎ですよ。温泉部分からはみ出ることなく真っ直ぐに火炎の柱がそびえたってます。

 もし、小さな魔物が温泉の中に潜んでいてもこれは生存不可でしょうねぇ。

「姉さん、熱いから大量のお水で冷やして」

 加熱したの弟くんですよね!?

 しかたないので冷やしますよ。氷水じゃなくて要求通り大量のお水で。ジュワッと蒸気が熱いんですけど!?

 あ。何回かパリンって破砕音が聞こえた気がしますね?

 ほどよく冷えたころ、覗き込むと温泉のお湯を溜める部分は色とりどりに染まっていました。つまりあの液体は『油化』で取り出した染料油ですね。あふれたお湯は武器を洗えるようにつくられた浅めの洗い場を通って浄化槽(『清浄』や『浄化』のギフトが発動状態で設置されている。魔力供給要)に流れつき常温になるようです。

 温泉水は保有魔力が豊富らしくギフト魔具(錬金術師作成)との相性が良いらしいですよ。

「ところどころ尖っているからすのことかいる感じかなぁ」

 そう言う弟くんにつられて私も覗きこみますが足湯程度の浅さを持つ部分はけっこう滑らかそうですよ。

「綺麗だよね。ティカちゃん!」

 振り返るとティカちゃんが額に指をあてて目を閉じていましたよ。ちょっとそのポーズかっこいいですよ?

「あんたたち、ほんとうに、あんたたちよね!」

 なんでしょう? なんだかよくわかりませんがほめられているわけじゃなくてどちらかといえば罵倒よりですよね。ティカちゃん?

「ちゃんときれいに気持ちよく使って欲しいよね。温泉施設はさ」

 弟くんがトカゲ氏を撫でながら満足そうですよね。ついでに周辺『清浄』かけときます。はい。

「そこじゃなくて! いきなり行動を起こさないの! 集団行動なんだからね! ハーブもネアも!」

 ひぃ!

 ティカちゃん怒ってる!

「あー、ごめん? お風呂壊されてムカついちゃった」

 弟くん、ソレ謝ってませんよね?

 ドンさんと隊長さんが視線を交わし合っているのを見てしまいましたよ。弟くんも要注意人物に昇格したに違いありません。

 私? 

 私はとっくに要注意人物になっていると思いますよ。

 森番のおじさんが「子供のやらかしだから」とか言ってますが、本来そういう程度ではないことはたぶん弟くんも理解していると思うんですよね。周囲も理解していることは理解してそうですけど。

 さぁ!

 今日も道をつくりますよ!

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