第265話 森に道をつくります⑤

 少し広めの休憩場スペースをつくり、迷宮入り口方面に連れて行かれてから馬車三台通れる幅の道をつくるネア・マーカスですよ。

 途中で温かい湧き水を発見し、弟くんと二人で「温泉!」と周囲を予定外に伐採してしまった事に悪気はないです。はい。

 え、ティカちゃんと今回のお供してくれている警備隊の人はドン引いてました。ちょっとごめんなさい。

「この湧水には疲労軽減効果と健康促進効果があるんです」

 キリッと真面目な表情で述べる弟くんもたぶんちょっとは温泉にはしゃいでましたよね?

 熱を含ませた魔核をいくつか水源に放り込んだの見ましたからね? 水温低かったですかね?

 お風呂文化はないわけじゃないんですが、比較的裕福層の文化ではあります。身綺麗にするには『清浄』だとか『洗浄』のギフトスキルや『水』で出した水を含ませた布で身を拭ったり、水で全身浴が主体です。川でひどい汚染を流すっていうのも有りです。

 きっと『洗浄』系のギフトが有能すぎなんでしょうね。

 弟くんと私は共通してお風呂好きですよ。マオちゃんが「毎日お風呂はヤ!」って言うぐらいには。

 だからマオちゃんは濡れた布で軽く拭いてからブラッシングするんですよね。ブラッシングは嫌がらないので。

 私は旅の最中でなければ二日か三日に一度はお風呂入りたい派で、弟くんは入れるなら毎日派ですね。

 料理前にはしっかり『清浄』か手を洗えとうるさいくらいですよ。あと食べる前にも『清浄』か手を拭うかしろと細かいです。

 まわりでわいた魔物掃討中のんびりと姉弟で露天風呂つくっていました。はい。

「お風呂も捨てがたいけど、とりあえず足湯かなぁ」

 なんて弟くんが言いながら深すぎないくらいに地面を掘り下げます。

「えー。肩まで疲れる深さがいいんじゃない?」

 なんて深い部分を造ったり。結果なんだか階段状になった。表面をトカゲ氏に焼かせてました。

 土の水槽には違いないんですが妙につるんとした光沢があり、どこか薄白い気がしますね。焼き物……でしょうか?

「あんた達、何遊んでんのよ!」

 ティカちゃんに二人して叱られましたよ。

 ここの水はお湯なので血抜きには向きませんよ。血抜き用の水場も確保要ですよね!

「おぉ。温泉ツー奴だなぁ。迷宮内の安全区画に時折り存在するという保養存在ときいてるな」

 森番のおじさんがほぅほぅと頷いていますね。魔物を討伐しながらたどり着いた隊長さんとドンさんも溜まりゆくお湯を見ながら「目隠しの壁が必要だな」とか「少し迂回するような道が要る」とか話しあってらっしゃいます。道のほぼ真ん中ですもんね。

 どのルートで伐採するのがいいのかな?

「あのあたりから軽く目隠しに使える木立ちを残して、あの辺りまでかな」

 少しズレた位置を森番のおじさんが指定してくれます。

 道を拓いた側は人が来るかも知れないので進行予定方向に向けて伐採しようと促されました。

 了解ですよ!

 馬車三台通れる幅は多少整備が間に合わず森に侵食されたとしてもすぐには森に還らない幅とのことなんですよね。多少広めに伐採しても戦闘しやすいのでかまわないとは伝えられています。休憩所になる場所には魔除けの塚(竈を兼ねた奴)を設置していく予定だそうですが、魔除けの塚の為の備品を準備するのは教会で今日あたりから司祭様が出向いて塚を用意していくらしいです。

 今回の目印は森番のおじさんのお弟子さんですよ。『ケモノの国』の国の人でここに迷宮があるのならと故国のそばで暮らしたいそうです。

 ひょろりとした細く毛深いおじさんです。

「当てませんけど、じっとしていてくださいね」

 そう伝えるとこくりと頷いてくれました。フードと首巻きで外見は痩せているのしか分かりません。毛深いのは手や尻尾がふっさふさだからです。基本尻尾が丸められているので怯えられてるのかも知れません。何もしませんよ?

『伐採』です。

 威力は距離が短いのもあってすぐにフードのお弟子さんの前まで到達します。かき消える風、一拍かニ拍おいて魔物がわきます。

 お弟子さんは『伐採』の効果が終わったとたんに地面を蹴り跳び上がりました。ものすっごく身軽です。

「ぉお!」

「ネアはちゃんと周囲警戒! 範囲スキル禁止!」

 ティカちゃんが私の行動を禁止しましたよ!

 弟くんの護衛はトカゲ氏にトロちゃんがいますからね。大丈夫でしょう。

 そう、視線を彷徨わせているうちにカチンと鞘に刃が納められる音がして戦闘の終わりです。早い。

 お弟子さんがザックザク血抜きして魔物を木々に吊るしていきますよ。警備隊の人たちよりむちゃくちゃ早い。手慣れてらっしゃいますよ。

「うわぁ、すぷらった」と顔色をちょっと青くした弟くんが呟きました。

 確かにちょっとアレな光景ですね。

 死体のぶら下がる森はあんまり気持ちのいい環境じゃありません。

「普通なら同種の魔物がこう吊るされていれば、少しは警戒してはなれていくからなぁ」

 森番のおじさんがそう言い、隊長さんとドンさんが頷きながら顔を青をこえて白くしてる人とかの背を叩いていますよ。

「これはしばらくお肉の入荷には困らないわね」

 ティカちゃん、嬉しそうですね。

「なぁ、隊長さんよ」

「なんでしょう?」

「吊るした獲物の内臓、うちの弟子に貰っていいかね? もちろん全部とは言わん」

「ええ。かまいませんよ。狩って頂いた上に初動処理していただいたのですから」

「おぅ、ありがとさん。ほら、いいってよ」

 フードのお弟子さんは言葉と同時に動いていました。

 あっという間に吊るされている数体の腹が切り開かれ、血臭が増します。あ。トロちゃんが落ちた内臓はぐはぐと食べてますね。あとで清浄かけますからね。

 お弟子さん、荷物袋を持っているらしくぽいぽい放り込んでらっしゃるようです。

 お昼休憩までにもう一箇所『すぷらった』現場ができました。

 足湯で休憩していいでしょうか?

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