第264話 今日も伐採
辿り着かなくても不満顔しないようにね。と弟くんに言い聞かされた伐採二日目早朝のネア・マーカスです。
今日の警備隊長さんには微苦笑付きで「おはよう。うちの隊員の成長のためにもあと二日ぐらいは欲しいかな。休憩場も途中で作りたいからね」と言われたんですよ。中継休憩処は確かにあった方がいいですね。
南門に着く頃には人出も増えてきましたよ。
あと昨日はなかった軽食を販売している屋台がそこココに準備をはじめていました。
商業ギルドが役場に申請していくつかの簡易屋台を料理人に貸し出して運営しているそうです。警備隊長さんによると屋台も商業ギルドが役場を通して技術者に製作を依頼する形で増産中だそうです。役場には町民登録した人の主要技能や本来所属する職能ギルドの記録がありますから声をかけていけるわけですね。冒険者ギルドの方でも専門家募集の依頼書は貼り付けられているそうですけど。
……つまり、グレックお父さん大忙しですね!
「うちも店の下働き雇ったわよ! おはよう。ネア。ハーブ」
「おはようティカちゃん。今日はお兄さんは?」
「兄さんは店で食材の下拵えに追われているわ。ルチルさんに時間経過ゆるい保管箱作ってもらってたから余裕があるといっても処理は早い方がいいしね!」
昨日、町の住人が食べても有り余る肉が供給されましたからね。当のルチルさんは狩りに出ることも許されず荷物袋や保管庫作成に忙殺されているそうです。保管場所不足は辛いですね。
「暑いと生ものは傷み早そうだもんねぇ」
弟くんがしみじみ言いますね。
そうですね。今は夏の期で暑いですからね。
「湿度が高くないからまだ過ごしやすい気もするけどね」
縁が広く張り出した帽子をかぶり直す弟くんです。
昔、従姉妹だった妹が持っていた布のリボンがついたかわいい帽子をなんとなく思い出しますね。ふくらはぎが軽くちらつく丈のスカートはふんわり風に揺れて日除けの傘がくるんとまわっておろされた黒髪がかわいい帽子のリボンと一緒に揺れるんですよね。
ああ。顔が、思い出せませんね。あの子も私にとってかわいい妹だったんですよね。あの子だけが『ねえ様』と呼んでくれて、あそこであの子だけが家族だと縋っていた。
「姉さん?」
「うん?」
「じめじめした夏はキツいと思わない?」
じめじめ?
「うぅん、じめじめはあんまりよくわからないけど、灼熱はキツイよ?」
「紫陽花の時期とか……」
紫陽花?
「肌涼しくなる時期だよね?」
しとしとと雨が続いて、よくあの子が熱を出していた気がする。
「ねぇ、アジサイってなに?」
ティカちゃんが口を挟んできましたね!
ここ、紫陽花ないんですかね?
有りそうですが。
よし!
「紫陽花はね、『天上回廊』で見た綺麗なお花なの」
あそこの迷宮主紫陽花くらい知ってそうだしね!(偏見)いざとなったら『魂極邂逅』に生やそう。よしそうしよう。綺麗だし!
あ、お花なら天水ちゃんのところでもいいかな?
天水ちゃんお花好きだし!
「七変化とも言われて色が変化する花を咲かせる植物なんだよ。迷宮環境に合わせて色や成分を変えるんだ」
くぅ!
鑑定能力羨ましいと言うべきかもしかして嘘八百と慄くべきかわからないぞ!
「ティカちゃんは灼熱とじめじめの夏どっちが好き?」
「どっちも嫌よ」
あ、はい。そうですね。私もどっちも嫌です。
「健康的な睡眠食事運動をして体力を育てられる暑さは歓迎だけど、殺しにくる暑さには迷宮に殺意を覚えるわ。環境変化こそが食材の豊富さに繋がるから否定はしないけどね。私も紫陽花いつか見てみたいわね」
あ、地表はすべて迷宮の影響で環境が左右されますもんね。今の環境は迷宮の影響とはっきり原因判明しているわけですからね。環境改善したければ、迷宮なんとかしろが普通の思想になるんですねぇ。
迷宮に要求は通せると言うのはごく当たり前のこととしてこの世界では知られているんですから。
忘れてましたけど。
「一緒に迷宮に潜った時に見つけたらすぐ教えるね!」
任せて!
「それ、時と場合。つまり状況をきっちり見て安全な時にしてちょうだい。いいわね。ネア」
あ、はい。わかりました。
南門の屋台は壁を修復する大工さんや石工職人さんが問題なく休憩できるようにも兼ねているそうですよ。
警備隊長さんに促されていくつか設置されている仮設の水場に清浄済み氷水をぶち込みます。ここで解体とかもするそうですよ。少しでも涼しく作業してください。
拍手されたので照れちゃいますね!
さぁ。
今日も伐採頑張りますよ!
「張り切り過ぎるんじゃないわよ。ネア」
昨日の最終地点まで歩くと普通に朝ごはん時間になったのでなにはなくとも朝ごはんですよ。
私、たぶん体力増えましたよねぇ。
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