第263話 食は大事

「トロは家族は噛みませんね?」

 弟くんに確認するネアお姉さんですよ。

「カシリも問題なくいい子でしょ? 契約している従魔はちゃんときいてくれるんだ」

 にこにこ弟くんは言うんですけどね。

「カシリはカシリ。トロくんはトロくん、別個体なんですよ」

 繰り返していると美味しそうだなぁと意識が食い気に回る名前ですよね。猪で豚トロ、鮭トロに大トロ、薬味を添えてバクッと。それで薬味の辛さにのたうつのが味わい方だよね。


【意識がかなり逸れてますよ?】


 は!

「だいたい、ハーブくんは放任主義ですからね。ちゃんと言い聞かせておくんですよ」

 うっわぁ、清浄かけながら撫でてるとふっこふこぉおお。

「……姉さん」

 ん?

「説得力ないし。……ちゃんと言い聞かせておくよ」

 んむー。

「トロなんて美味しそうなお名前つけるからですよ!」

 トカゲは美味しそうじゃない名前なのに!

 お口のなかでトロけるのトロちゃんですよね?

「姉さん、従魔を非常食として見ないでね?」

 ぶはっと警備隊員(班長クラス)の人が笑いを堪えかねたらしく吹き出しましたよ。帰り道一緒なので早帰りの人たちに送ってもらっています。

 ティカちゃんはお兄さんのお手伝いしてから帰るそうで別行動です。

 回復系のギフトスキル使えるティカちゃんは逃がしてもらえるんでしょうか? すり傷や打撲の症状軽減と止血ができるだけでも助かるらしいですからね。

「んむー。ちょっと前まで痩せ狼のお肉はご馳走だったんですよね。他の美味しいお肉に慣れちゃうとたぶん、生臭いし、固いし、旨味もうすいんですけど、食べれたから生きてるんですよね。痩せ狼よりトロちゃんはふくふくしていてきっとお肉も美味しいんでしょうが、ちゃんと食用肉は狩れているんですから大丈夫ですよ。ちなみに、トカゲ肉は比較的さっぱりめで美味しくいただけるということを私は知ってますよ」

 旅に出て貧しくない食卓にふれて私は学んだ!


【貧しい食卓からまだ出ていないかと】


 えぇえ。

 天職の声さん基準では私が口にしているのはまだ貧しい食卓範囲だとおっしゃいます?

 対比対象が少ないので私にはわかりかねますよ。

 夏野菜ダレの肉団子とか豊かな食生活だと思うのに。

 今、お野菜も穀物(これは学都で獲得した在庫)もお肉も不足なく手元に届きます。

 これは豊かな食生活だと思うんですけどね。

 あと、油を生活のためでなく、料理に使うってかなり贅沢な使い方なんですよね。弟くんが気にせず当たり前に行動するので麻痺しがちですが。

 油は灯りや設備や武装工具の整備保持に使われますし、傷の保護にも使われます。使用優先度的に防衛設備の整備が優先されるものです。

『油化』のギフトを使っても多くの素材から採れる油の量は正直なところ僅かです。鍋を満たす油はその一杯で銀貨一枚の価値はあるんじゃないでしょうか? しかも食用可という条件付き。

 なんというか、あんまり穀物を重要視する人はいなかったりするんですけどね。酒場のメニューで穀物系がつくのはお子様メニューでオッさん達がバカにしてるのはよく見ました。(迷宮学都で)お子様メニューに穀物系があるのは貧乏人や子供にはこれでも食わせとけ感覚のようです。違う人たちもいますけどね。

 植物性食品の地位向上を目指すべきかなとちょっと思います。お肉系も好きですが、野菜系も好きなんですよ。私。

「カシリも狙われてた!?」

 弟くんがあげた声に警備隊の人たちが堪えきれない笑いをもらしていますよ。

「家族は食べませんよーだ。他にも食べられるものいっぱいあるし、もっと増やすために迷宮行きやすくするんでしょ!」

「うん。そうだね。食材の種類が増えれば作れる物も増えるもんね」

 ……。

 弟くん、食のレパートリーまだ隠し持ってるんですか?

『蒼鱗樹海』は『ティクサー薬草園』より果樹の種類が多いですよ! 果物煮詰めたジャムをいろいろ食べたいですね。

「じゃあ、明日中に『蒼鱗樹海』の入り口に辿り着きたいですねぇ」

 盛り上がる気持ちのまま言うと弟くんがにこりと表情のない笑顔を浮かべました。器用ですね。弟くん。

「つまり、明日は今日以上にキツいコトに」

 今日の距離がどれほど進んだのか知りませんが、もともと町から歩いて(遠回りの砦コース)朝出て昼にはつく場所ですよね?

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