第261話 お昼休憩

 兎肉と猪肉の微塵切りを小麦粉玉ねぎ鳥の卵で混ぜこねた肉団子を鉄板で押し潰すように焼いたものに赤茄子で作ったタレをたっぷりとかけて薄く焼いた小麦パンで挟んだ物を頬張っているネア・マーカス、十歳女児です。

 コレはティカちゃんのご両親が弟くんのおねだりに応じて作成したお料理です。

 届かなかった長剣数本分の距離は冒険者の人たちが頑張って伐採となったそうです。

 森番のおじさんが弟くんを撫でながら「よく生きとったのぉ。あかん前提で動いてしもたわ」とけらけら笑ってましたよ。

 年配の方って割り切り早いですよね。

「そうよ。むしろあの状況でなんで生きてんのよ。おっかしいでしょ!」

 ティカちゃんが怒りながら肉団子パンにかぶりついてます。怒って食べるとあとでおなか痛くならないかなぁ?

「ティカちゃん、ありがとう」

 へろりとあんまり見ない表情で弟くんがティカちゃんに笑いかけてます。いつもどこか澄ましてますからね。弟くんは。

「心配してくれて嬉しい。こわい思いさせてごめんなさい」

 ティカちゃんがぎゅっとパンを握りしめたのでお肉が落ちそうですよ?

 黒い仔犬トロくんが(美味しそうな名前だねって言ったら弟くんが「食べちゃダメだよ」と言ってきた)落ちたお肉なら食べていいのかと見つめていますね。

「こ、こわくなんかなかったし!」

 え?

「べ、別に心配なんってしてないし!」

 え?

 おもいっきり心配していたと思うんですよ?

 顔真っ赤で否定されるとけっこう悲しくない?

「うん。姉さんを心配してくれたんでしょう? ありがとう」

 は?

 私?

「バッカじゃないの! さっさと食べちゃいなさいよ!」

 勢いのついた動きがティカちゃんのお肉を逃すことになろうとは!

 落ちる前に仔犬くんが大口あけて受け止めていましたよ。

 口まわりに赤いタレいっぱいつけてもぐもぐですか。美味しいですか。そうですね。美味しいですね。

 お肉のなくなったパンを勢いよく食べ尽くしたティカちゃんがキッと私を見てきますよ?

 なにかお肉だします?

「口まわり真っ赤よ」

 ほへ?

「食べ終わったら清浄かけちゃうね」

 今綺麗にしてもまだ食べてるから。

 私たちがおやつ食べてお昼食べてしている間に伐採の手配を終えたらしい警備隊長さんがこっちに来て討伐と軽い整備の差配をしてらっしゃいますね。

 森番のおじさんはのんびりと私たちと同じ肉団子パンを「こりゃ食べやすい」と言いながら味わってらっしゃいます。お肉が柔らかくてそこがいいそうです。

「午後から伐採は続けられるかな? ネアくん」

 警備隊長さんによくわからないことを尋ねられました。

「魔力は問題なくいけますよ?」

 むしろ、警備隊の人たちの疲弊具合の方が問題なのでは?

 あと解体班。一応、集められた魔物は血抜き後冷却してはいますが、距離が出て量が増えると運搬に問題が発生しそうですよ?

「ハーブくんの件もあったからね」

 弟くん?

 弟くんが従魔契約を結んだ件ですか?

 元気ですし、問題ないですよね?

 従魔が増えて間違えて攻撃される可能性の危惧?

 そこは弟くんが折り合いをつける問題点ですし。

 あ。

「ティカちゃん、だいじょうぶ?」

 魔力かなり使ってたし、動揺もしていたのは確かだもの。疲れたよね?

「私? 私なら休んだし、あんた達がそうなのはいまさらだしだいじょうぶ。落ち着いたわ。そうよ。あんた達はこんなもんだったわ」

 え。後半なんか酷いこと言われてる気がするんだけど?

「ネアはハーブ心配じゃなかったの?」

「私は状況を見てないし、ハーブくん、『石膏瓦解』の五階層で階層ボス前にしても平然としてたから地表に出てる魔物くらいなら平気なものだと思ってるかなぁ」

「地表魔物は流れもんもあるから弱いとは限らんぞ」

 森番のおじさんが衝撃の事実を!!

 マジで!?

 大人の「知らなかったのか」と言わんばかりの表情が私の無知を責めているようでつらいと思います。

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