第258話 森に道をつくります②

 思ったより長い三十を数えた気がするネア・マーカスです。

「冷却区画がさっむいわ!」とドンさんに不満をぶつけられたので「ええぇ?」って気持ちも含めて森番のおじさんを見ればサッと露骨な態度で顔を背けられました。

 ドンさんはこちら側に来て、「次からはジェンキンス隊長を狙え」といきなり言いましたよ。目標地点警備隊長さんに変更だそうです。後もう少し距離があってもいけるだろって信任票をもらいましたよ。わかってます。調子に乗らないよう気を引き締めます。

 ……ほめられるの気持ちいいですね!

 兎を撲殺していたティカちゃんがちらっとこっちを見ましたね。大丈夫ですよ。今度は思わずヤっちゃったりしませんから!

 弟くんはマイペースに森の恵みを回収してますよ。防衛はトカゲくんにお任せのようです。小さいのに強いんですね。トカゲ。

 今回の伐採は範囲が狭かったので主たる討伐はざっくり終わりました。何人かの班長さんとその部下を連れて隊長さんが到着です。

 森番のおじさん、ドンさん、隊長さんで次のパターンのお話し合いですね。

「ネア、ちゃんと聞いときなさいよ」

 え?

「決まったら教えてくれるよね?」

 それに応じて行動すればいいのでは?

 おもいっきりティカちゃんがため息吐きましたよ。

「どういう理由を持ってそういう結論が選ばれていくのかはきちんと認識していて損はないし、できないことなら事前にできないって発言できる機会を逃すのは損よ」

 あ、ため息追加した。

「たとえ、能力的に可能でも心境的にしたくない時も出来るだけ早く伝えるべきね。揉めるのが長くなるから」

 なるほど。

「あのさ。他の人の考え方に触れる事はいい事だと思うよ?」

 弟くん?

「否定するにも利用するにも分かろうとするにも基礎情報は大事になるからね」

 弟、くん?

 にっこり笑ってこわいこと言ってない?

「知ったら何とかしてあげれるならしたいってならない?」

 天職救済者だよね?

「誰しもできることとできないことがあるんだよ。姉さん」

「そうね。ハーブの言う通りできるできないはあるわ。だから知ることが大事なの。知ろうとすることがね!」

 あー。うん。情報は大事だ。

「そうだね。尼僧長様も学ぶ事は、知識を増やすことは大事だっておっしゃってた」

 森番のおじさんがうんうん頷いていた。あれ?

「次の機会からは聞いとれよ。ネア坊」

 お話し合い終わってましたね。

 ざくざくと深まってくる森の細い道を森番のおじさんとドンさんが打ち払いながら先行し、警備隊のお兄さんたちが警戒と踏み固めをしながら進みます。

 この間、出てくるのはウサギやリス、蛇に虫が少々。小さな小川にぶちあたったところで振り返ります。

 班長さんが空に向けて閃光のギフトを投げ飛ばせば応答するように閃光がまた空を彩りました。

 先程の地点に留まっている隊長さんの周囲から人の気配が外れます。隊長さんを目印にその手前まで『伐採』です。

 魔物たちはまず驚き、その次に住処を破壊された恐怖と怒りでそれぞれの行動を開始します。

 ドンさんが『威圧』のギフトを(たぶんスキル化してそう)使い攻めてきそうな初動を阻害、その間に警備隊の人たちが戦闘スタイルを決める。そんな感じの連携のようです。私はまだ『伐採』の威力の制御中ですよ。

 隊長さんの周囲まで『伐採』の威力が届くまで実際のところ十かそこらを数える程度だと思うんですが、スキルを使っている時って時間が間延びして感じるんですよね。ちょっと不思議な独特の感覚です。

 逃げるか人を襲うかで悩む猪型の魔物とか、逃げ一択の山鳥とかを視認している感覚です。見てるわけでなく、認知していっているだけかもしれませんが。

「熊だ!」

 どこか遠くからそんな声が聞こえてきました。

 遠くではなく、肉体のあるすぐそばでした。

 知覚先が伐採の最先端に焦点を当てていたらしく、軽い目眩を感じます。熊?

 茶色と黒の縞模様の熊が警備隊のお兄さんの鎧を薙ぎ殴るその瞬間でした。

「熊、冷却! ネア!」

 ドンさんの声に合わせて熊の血液を全て凍らせました。

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