第256話 わからないんですけど?
ティカちゃんは結局売り子くんを「あっちでお手伝いしてらっしゃい」と門近くに追いやり、私の手をとって「ちょっと先の方見に行きましょ」と喧嘩が物理的に起こらない距離を確保に移りましたよ。
喧嘩はする気のないネア・マーカス十歳です。
冒険者資格取れないならあの子十歳以下ですよね。年下相手ですもの。わかってます。大人げないって。初対面でも睨まれましたよね。気にしなくても記憶には残るくらいに印象的だったんですよ。
「姉さん、お芋揚げた奴に溶かした砂糖つけたの食べる?」
弟くん、私には美味しいもの与えておけば機嫌が治るって思ってるでしょう?
八割正解ですね。
「食べます。塩味は?」
「あるよ」
それは素敵です。
「ワズとどこで知り合ったの?」
んー?
「たぶん市場区画の井戸の冷却清掃中にいた売り子くんのひとりだったよね。と思ったの。初対面から睨まれたからなんとなく覚えてる」
「なんとなく、なんだ」
だって興味ないし。
「上の兄の元カノの弟なの。ちょっと家族ぐるみで交流がある子で、なんでネアに攻撃的なのかちょっとわからないんだけど」
「そうだね。あの売り子くんの問題だから、ティカちゃんは気にしなくていいんじゃないかな?」
「ネアが気にしないならいいんだけど」
気にはしないよ。
「仲良くするわけじゃないし」
お仕事でかちあえばちゃんとお仕事はするけどね。
え?
ティカちゃん的には仲良くしてほしいとか?
「そうね。ならいいわ」
あ、大丈夫そうです。
「上のお兄さんの元カノ?」
弟くん、そこに食いつきますか?
「うん。婚約話までいってたんだけど、迷宮探索中に事故って帰ってこれなくて……。よくある話なんだけど、ま、話もなくなって、でもここで再会して。私たちにできるのって稼ぎネタの紹介ぐらいでしょ。なんていうか、必要資金稼いでからが自由時間だと思うの」
あ、コレ、日常的に鬱憤たまってます。って奴だ。
「目はいいんだからもうちょっと真面目にやれば魔力をあまり含まない薬草種の採取だってできそうなのにムラっけが強くて。まだ九歳だからかもしれないけど、ハーブだってこんなにしっかりしてるのに!」
七つよ七つ! ティカちゃんがプンスコ怒りながら弟くんを撫でています。
弟くんは、基準にしちゃ絶対ダメだと思いますよ?
「能力と性格、気性っていうのもあると思います。あと、僕には姉さんがいますしね」
どーゆー意味ですか。弟くん……。見回したら『わかる』って表情で頷いてるのがティカちゃんと警備隊長さん、ちょっとはなれた位置にいるドンさんですが、そこ聞こえるんですか?
「あと、姉さんに突っかかるのはわからないでもないですよね」
え?
わかんないよ?
「ワズくんはティカちゃんを家族同然に好きなんだとしたら、理由はヤキモチでしょ」
これしかないって顔で得意げな弟くんはちょっと珍しいかもですね。
ティカちゃんが好きだから、ヤキモチで、私を睨む?
どうしてそうなるの?
ティカちゃんが好きなら好きでいいじゃない?
私だってマオちゃん大好きだけど、ちゃんとお友達作って大事も大好きも増やせればいいって思うよ?
ううん、弟くんがマオちゃん餌付け成功させてた時、ちょっと寂しかったけど、仲良くしてるからいいかなと思ってたし?
弟くんが微妙な表情で私を見ますね。地味にその表情が嫌いになりつつありますよ。弟くん。
意図するところは分かりませんが、マイナス極側の表情だってことはわかるんです。『ありえねぇ』と言わんばかりといったところでしょうか?
「姉さんはティカちゃんがワズくんと仲良くしていたらどう思う?」
え?
そんなの決まってるでしょ。
「ティカちゃんの交友関係はティカちゃんのものだよ。ティカちゃんの時間だってそう。お互いの時間が先約ありなら、次の約束取りつけるくらいじゃない?」
「その通りだけど、ちょっとくらいさびしいって思って欲しいと思っちゃうわよ。ネア」
えー。
「さびしいのはさびしいと思うよ」
でも、でもさ。ちゃんとネアと過ごす時間を確保するためにティカちゃんが頑張ってくれてるの知ってるから。
「ティカちゃんの判断を信じてるんだ。全面的に」
「ネア、それ、重過ぎるわ。あと、もう少し人のはなしに興味を持つ方がいいと思う」
えー。ダメ出しぃ。
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