第255話 ネア、悪くないです!

 ところでなんで売り子だったと思われる子に吠え立てられてるんでしょうと頭を揺らすネア・マーカスです。

 どーやらティカちゃんのおうちと家族ぐるみのお付き合いがあるらしく、私の暴走を止めるためにこっち側にティカちゃんが呼ばれたことが不満だそうですよ。

 なんで?

「ティカちゃんと仲がいいのかなぁ?」

 弟くんがちょっと遠い目で呟きます。

 ティカちゃんと親しげにしてますが、それでどうして私が吠えられるんでしょうか?

 というか、ティカちゃんに叱られてるっぽいですよね?

「あぶないことしたのこのチビだろ!? あの冷気には覚えがあんだからな!」

 ビシィッと人差し指がネアに突きつけられましたよ。

 あぶないこと?

 伐採はちゃんと人が怪我をしないよう感知しながら切ったし、魔物も飛び出さないよう冷やして動きを鈍化させました。警備隊員のお兄さんたちは「雑魚狩りだ!」と掛け声あげてましたよね?

 あぶないこと?

「姉さん、早過ぎた魔物の追加はあぶないことのうちに入るからね」

「でも、狩りにあたる人の数も増えたよね?」

 それこそよっわいのは倒せそうな人に任せて危険度のある魔物を強い人たちが相手をすればいいのでは?

「戦闘慣れしてない人はその区別がつかないのよ。だから怪我人を増やさないためには警備隊の人や冒険者の人たちでも戦闘慣れしてる人に見守りしてもらわないといけないの。人手は足りてないわね」

 私の疑問にティカちゃんが答えてくれる。

「ナーフ嬢は詳しいですな」

「ティルケです。ギルド受付けに姉がいますし、上の兄も冒険者として活動してるのでお話だけは聞いていますから」

「ご理解、配慮感謝します。ティルケ嬢」

 二人の会話は大人っぽいと思う。

「ワズはここにくるってことは今、できる作業がないってことよね。安全確保は大事だからいいけど、それで人に突っかかるのは違うでしょ。明らかに自分より強い相手に喧嘩を売る馬鹿らしさを知らないわけじゃないんだから。それとも、バカなの?」

 ティカちゃんがサッと視線を売り子の子に移して言葉を流しこむ。

 警備隊長さんが微笑ましく見守ってるし、弟くんがちょっと引いてる。ティカちゃんカッコいい。

「あぶないことしたの、そのチビだろ!」

「防ぐのも対応するのも警備隊の人の仕事よ。警備隊の人を無能って責めるの?」

 ティカちゃんの言葉に売り子くんは絶句して、ただ口をもごもご動かしている。小さく「ティルケ嬢」とこぼす警備隊長さんの声はスルーされているのが正しい。たぶん。

 でもさ。

「戦闘慣れの機会にはなったのかな?」

 だって『石膏瓦解』での冒険より安全性高いし?

「ネアはのほほんとまわりを煽らないの!」

 ティカちゃんに怒られました。

 煽るってなに!?

「あ、たぶん姉さんに悪気はないと」

 え?

 なにか言っちゃいけないこと言った?

「警備隊の人達いるから『石膏瓦解』の時より安心安全だねって思ったんだけど?」

 弟くんが「あー」って納得の表情を浮かべ、ティカちゃんと警備隊長さんが眉間に皺をよせましたよ?

 なんで?

 安全安心だね。って感想なん、だけど?

「なんでおまえみたいなチビが迷宮潜ってんだよ!?」

 売り子くん怒鳴らないと喋れないのかなぁ?

 怒鳴り声嫌い。

「職能ギルドに所属できてるからだし、『石膏瓦解』は不意打ちデストラップに地上で引っかかっただけだもん。他にも小さい子たちばっかで大変だったんだからね!」

 迷宮探索に関しては私有資格者だし!

 ちゃんと十歳で、正式に資格持ってるんですよ。たぶん売り子くんとは違うんです!

 ちょっと私より背が高いからってちびちび言い過ぎだと思います!

「はぁあ!? ちょっと先に産まれたくら」

「っくだらない言い争いしないの!」

 ティカちゃんにおでこはたかれました。

 売り子くんもおでこ抑えてました。

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